天蘭-soran-
voice:天蘭-soran-

一人エッチを認めないツンデレ弟

(クチュクチュ音と荒い息遣い)

(自室のドアの開く音)

……えっ!?
姉ちゃん!?

なんでいるの?
帰ってくるの、来週って聞いてたけど…。

あ、そう…。
気分ね。

気分で帰ってくるにしても、連絡のひとつくらいしてくれてもよくない?
こっちにも準備とかいろいろあるんだし…。

……母さんと父さん?

母さんは『お姉ちゃんが帰ってくるのに、これだけじゃ足りない。買い出しに行かなきゃ』って買い物に行って、父さんは母さんの荷物持ちで一緒に出かけてった。

連絡もないのに、姉ちゃんが帰ってくるって分かる母さん、すごいよね。
それが親ってもんなのかな?

今夜は鍋にするって言ってたよ。
姉ちゃんが帰ってくるつもりで買い出しに行ったから、豪華になるんじゃない?

母さんのことだもん。
張り切って、あれこれ買い込んでくるに違いないって。

父さんも、張り切ってる母さん見てるの好きだから、止めようともせずに見守ってるだけだろうし…。
余計な物まで買ってこなきゃいいけど…。

どっちにしろ、あと3時間は帰ってこないよ。
買い物だけじゃなくて、普通にデートして帰ってくるはずだもん。

だって、ここんとこ、父さんの仕事が忙しくて休みの日もずっと仕事で、2人きりで出かけるってことなかったからね。
きっと、今頃夫婦水入らずで楽しんでるんじゃない?

姉ちゃん見たことない?
2人がイチャついてるとこ。

ふぅーん。
そっか…。

親がイチャつくほど仲がいいのは子供としては嬉しいけど、せめて見てないとこでイチャついてほしいわ。

俺がいるって分かってて、目の前でイチャつくんだもん。
見てるこっちが恥ずかしいったら、ありゃしない…。

さっさと金貯めて、俺も家出よっと。
そしたら、いろいろやりたい放題…。

違う!
一人エッチなんかしてない!
足の付け根のとこに、足の冷えに効くっていうツボがあって、それを押してただけ。
ズボン履いたままだと分かりにくいから、下ろしてたんだよ。

やめてよね。
変な想像するの…。

前は足の冷えとか全然なかったんだけど、最近やけに冷えてきちゃってさ…。
それで、何かいい方法ないかなって探してたら、ちょうど見つけたってわけ。

俺もとうとう冷え性デビューしちゃった…。
指先、冷た…。

姉ちゃんにも、このツボ効くかもよ。
足のむくみにも効くって書いてたの見た。

こういうのって、セルフケアが大事って言うじゃん。
ものは試しでやってみようよ。
やってみないと効くか効かないか分かんないし…。
俺が教えてあげる。

まず、座って。
で、太ももの付け根にできた線……そう。関節のところの線。
そこの真ん中あたりの動脈が触れるところにあるんだって。
ちょっとグッと押してみたら分かるよ。

分かった?
そしたら、痛気持ちいいくらいの強さでグリグリしてみて。

こうすることで、リンパの流れとか血流とかがよくなって、むくみとか冷えにいいんだって。

ん?
別のところの血流って、何のこと?
急にわけ分かんないこと言わないでよ。
大丈夫?
帰ってきた安心感で疲れがドッと出たんじゃない?

姉ちゃんの部屋、今日母さんが掃除してたから、母さんたち帰ってくるまで部屋で寝てなよ。
ご飯ができたら起こしてあげる。

べ、別に、姉ちゃんのこと、部屋から追い出そうとかしてないし。
姉ちゃんの体調を心配して、気を利かせてあげてんじゃん。

だーかーらー!
一人エッチしてないってば!
ツボ押しマッサージしてただけ!

ってか、姉ちゃんこそ、ノックもなしに勝手に部屋に入ってこないでよね。
普通に空き巣か何かかと思ったじゃん。

話をすり替えようとかしてないし、ごまかそうとかも思ってないよ。

(溜息)はぁ…。
久しぶりに帰ってきたと思ったら、いきなりこれなんだもんなぁ…。
いっつも俺のこといじめて、楽しい?

いじめてんじゃん。
現に今だって、「一人エッチしてない」って言ってんのに『してた』って言うし…。

違うって言ったら、違うの!
何度言えば気がすむの?

…なんか普通にムカつく。
『はいはい。お姉ちゃんは分かってるよ。一人でヤってたっていいじゃん。隠すことないって』みたいな雰囲気出さないでくれる?

めっちゃ出してんじゃん。
その顔が何よりの証拠。

あぁー、ムカつくー!

姉ちゃんなんか知らない!
母さんに『起こしてきて』って言われても起こしてなんかあげないんだから!
明日の朝まで寝てればいいんだ!

ほら!
さっさと出てって!
これから友達とゲームするから、姉ちゃん邪魔なの。

もう…。
いじめてくる姉ちゃん、嫌い!
大っ嫌い!

…でも、帰ってきてくれて嬉しい。

……おかえり、姉ちゃん。