天蘭-soran-
voice:天蘭-soran-
鴉丸コウ【女性向けASMR&シチュエーションボイス】
voice:鴉丸コウ【女性向けASMR&シチュエーションボイス】

貴女がいればそれでいい

(お嬢様はソファーで寝ている)

……お嬢様……お嬢様…お嬢様っ!

やっと起きてくださいましたね…。
何回私が声を掛けたと思ってるんですか?
ほんとに、貴女という人は…。

とりあえず、服をお召になってください。
ご用意いたしましたので…。

ここ最近忙しかったのは理解しておりますが、帰ってくるなり、服を脱いで、そのままソファーで眠りこけるなんて…。

目のやり場に困るから言ってるんじゃないです。
だらしないし、はしたないから言っているんです。
仮眠をとるのは構いませんが、せめて部屋着にお召替えなさってからにしてください。
いくら空調が整っているとはいえ、下着姿のままでいてお風邪を召してしまったら、どうするんですか?
私の責任になるんですからね?

お嬢様の体調管理も私の仕事のひとつです。
責任を取らされてクビに…、なんてことになったら困るのはお嬢様ですよ?
私以上にお嬢様をサポートできる執事はおりませんから。

『はい、はい』っていつもおっしゃいますが、本当に分かってますか?

だったら、この床に置かれてる服はどういうことです?
「脱いだ服は一か所にまとめてください」と、あれほど毎日口を酸っぱくして言ってるのに…。

これのどこがまとまってるんですか!
これは脱ぎ散らかしてるというんです!

幼稚園児でも一度言われれば大抵のことはできますよ。
…今のお嬢様は幼稚園児以下ですね…。

(はぐらかすように)いえ、何も…。

お嬢様もそろそろ結婚の話があるでしょうし、そんなにはしたなくて、だらしないままだと嫁の貰い手がありませんよ?
行き遅れても知りませんからね?

はぁ…!?

(咳払い)ん゛ん゛っ…。
失礼いたしました。
驚いてしまって、つい…。

まさか、お嬢様にお相手がいらっしゃったとは存じておりませんでした。

怒らなくてもいいではありませんか。
今まで浮いた話のひとつもなかったので、てっきり恋愛事には(うと)いのだと思っておりました。

それで、お相手の方はどんな方なんですか?

(相槌数回)

…左様でございますか…。
お嬢様にはもったいないほど素敵な方ですね。

でしたら、尚更現状を改めないとなりません。

当たり前です。
今のお嬢様の様子を知れば、どのような殿方であっても幻滅します。
百年の恋も一瞬で冷めてしまうほどに…。

…私、ですか?

私は……幻滅しませんよ。
お仕えし始めた頃は驚きましたけど、今はもう見慣れてしまいました。

えぇ。
私ですら、そんな状況だったんです。
今のお嬢様の状況がいかにひどいか、ご理解いただけましたか?

ですので、ゆっくり時間をかけて、直していきましょう。
急ぐ必要はありません。
短時間で直そうとすれば、お嬢様の場合絶対ボロが出ますからね。
それほどまでに、筋金入りのだらしなさとはしたなさだと言うことです。

お嬢様にはコツコツゆっくりが一番なのは、私が一番存じております。
ちゃんと直るまで私がついておりますので、ご心配には及びませんよ。

それはそうと、近々お相手の方をご紹介していただけますか?
旦那様と奥様にご紹介される予行演習として…。

就活の面接の練習みたいなものです。
いきなり旦那様と奥様に結婚の許しを得に行くよりも、まずは私で練習しておいた方が心の準備ができてよくないですか?
きっと、事細かに聞かれて答えられると思いますよ?
特に、旦那様には…。

旦那様ご自身が選んだ相手ならまだしも、お嬢様が選んだどこの馬の骨か分からない男にお嬢様を嫁がせるとは考えられません。
世間一般では、婿となる男性は殴られる覚悟をして、結婚の許しを貰いに行くとも聞きますしね…。
父親というものは、そういうものです。

ですから、旦那様としてはきっとおもしろくないはずです。
お嬢様が困るようなことを聞いて、うまく話の流れを作った上で、こじれたところを破談に…という可能性もあります。
そんな時、私がお相手の方を存じておれば、サポートすることができて、少しは円滑に話が進むと思いませんか?

……まぁ、本当にお相手の方がいれば、の話ですけどね。

最初から全部嘘でしょう?
話を聞いていれば分かりますよ。
だてに、何年もお嬢様専属の執事をしていません。

……もし、お嬢様が適齢期を過ぎても結婚できなかったら、ですか?

そうですね…。
その時は私がお嬢様を嫁にいただいてもよろしいですか?
身分が違うので旦那様に許していただけるか分かりませんが、少なくともどこの馬の骨か分からない男ではないですからね。
意外とあっさり認めてもらえるかもしれません。
それに、お嬢様のあんなことやこんなことも存じておりますし。

…何を考えていらっしゃるんです?
お嬢様の食べ物の好みや日常生活のルーティンの話ですよ?

(耳元で)…お嬢様ったら……やらしいですね。

安心してください。
時がくれば、そっちも私が手取り足取りお教えいたします。

ですから、私がいないと何もできないくらいダメ人間なお嬢様のままでいてくださいね。