小鳥遊きの
voice:小鳥遊きの

好きな匂い?嫌いな匂い?

(電車から降りて歩いている2人)

はぁ…久しぶりのラッシュ、ヤバかったぁ…。
空調効いてるって言っても、あんなにギューギュー詰めになってたら暑くてたまんない…。

あっ…ごめん。
悪いけど、今は近寄んないでくれる?

あの……えっと……なんというか……その…。
……イヤ…なんだよね…。
…結構汗かいてて、汗臭くなってるから。

そういう時に、近寄られたくない。
特に好きな子には…。

だって、『汗くさっ!』とか思われたくないじゃん。
汗拭きシート使った後ならいいけど…。

(人の邪魔にならないところで立ち止まる2人)

(独り言っぽく)あれ?
嘘!?
…ない…。
忘れてきた…?
うーわ…最悪…。
今日に限って、汗拭きシート忘れるとか…。
あとでコンビニ寄らないとなぁ…。
今月ヤバいから余計な出費したくなかったのに…。

(彼女がくっついてくる)

ちょっ…!
俺の話聞いてた?
近寄られるのイヤなんだって。

ヤダ!ヤダ!
くっついてこないで!
匂い、嗅がないで!

…こんなに汗かいてて、全然臭くないはずないじゃん。

えっ……『俺の汗の匂いが好き』…?

マジで言ってる?

…それ、変態発言だよ?

違わなくないって。
どんなに好きな相手だとしても、普通は汗の匂いとかイヤなもんだし…。

ん?
俺?

俺は好きだよ。
君の汗の匂い。
全身の汗をベロベロ舐め取りたいくらい好き。

…ふふ。
その(さげす)んだような目、たまんないね。
ゾクゾクする…。

どうせド変態ですよー。
だから、汗の匂いが好きでもいいの。

でも、ほんとに生理的に受け付けない人の匂いって遺伝子レベルでダメなんだって。
思春期の娘がお父さんの匂い嫌いって言うのは、そういうのらしいよ。
本能で近親相姦にならないように回避してるって、何かで見た。

逆に、いい匂い、好きな匂いって思うのは、匂いフェチとかただ単に好きってこともあるけど、遺伝子レベルで相性がいいんだって。

ということは、俺と君は遺伝子レベルで相性いいってことだよね。
汗の匂いが好きって言っちゃうくらいだし…。

出会うべくして出会ったって感じじゃん?
これはもう運命。
『別れちゃいけません』って、神の(おぼ)()しなのかも…。

あぁ…ありがとう、神様…。
一生彼女を大事にします…。

えっ!?
ちょっ…!?
いつかは別れるつもりなの?
だから、『一生はイヤ』とか言ったの?

そんなことないよね?
嘘だよね?そんなの。

ねぇ。
嘘って言ってよー。

(彼女を抱きしめる)

ヤダ。
離さない。
見られるとか、見られないとか関係ない。

それよりも、今の言葉、訂正して。
『一生はイヤ』って言葉。

嘘って言ってくれなきゃ、ずっとこのままだから。

遅刻とか関係ないもん。
俺にとっては、遅刻なんかよりこっちの方が大事だもん。

遅刻がイヤなら、早く言って?

(耳元で)…ずっと俺と一緒にいるって…。

…よく言えました。

(耳元に触れるだけのキス)

(再び歩き出す2人)