小鳥遊きの
voice:小鳥遊きの

【童話アレンジ】ナンパな白ウサギに転がされる…?

(走っていて、息を切らしている)はぁ…はぁ…はぁ…。

……うわっ!!

(誰かにぶつかる)

…イタタ。

ごめんね。
大丈夫?
怪我とかしてない?

…よかったぁ…。

ほんとにごめんね。
時計に気を取られちゃってて…。

女王陛下のお城で開かれるお茶会に参加しなきゃいけなくてさ…。

(独り言っぽく)(溜息)はぁ…。
完全に遅刻だ…。
今から急いでも、もう間に合わない。

あっ!
君は全然悪くないよ!
悪いのは全部僕だから…。

今日のお茶会、ほんとの目的はお見合いなんだ。
女王陛下主催の。

ここ最近、この国での婚姻率が落ちてるとかで、種族問わず、適齢期の男女を集めて定期的に開催されてるの。
知らない?

はた迷惑な話なんだけどさ…。

まぁ…そうは言っても、どんな子が来るか楽しみで、昨日の夜から眠れなくて…。
「もう寝なくていいか」って思った矢先に眠くなっちゃったんだよね。

一応、寝坊した時のことを考えて、ある程度(支度したく)()ませてから、ちょっとだけ仮眠とったの。
30分くらいのつもりで。

もちろん目覚まし時計もかけたよ。
だけど、全然気付かず、爆睡しちゃって…。
起きてみれば、仮眠し始めて5時間経ってて、遅刻ギリギリ…。

急いで家を飛び出して、滑り込みセーフを狙って、時計と睨めっこしながら走ってたら、君とぶつかっちゃったってわけ。

だから、気にしないで。

っていうか、君も、見たところ急いでるようだったけど…。
どこか行く予定だったの?

…えっ!?
君もお茶会に!?

それって、もしかして……女王陛下のお城で開かれるお茶会?

へぇー。
こんな偶然ってあるんだね。
こういう話ってよく聞くけど、おとぎ(ばなし)だと思ってた。

ねぇ。
さっきからそわそわして、どうしたの?

…お茶会に行く!?

やめといた方がいいよ。

招待状に書いてなかった?
『時間厳守』って。

それって、女王陛下が時間に厳しい人だからなんだ。
1秒でも遅れたら、死刑。

うん。
おかしいよね。
この国の皆が思ってる。

そう思ってても、これはずっと昔から決まってることで、今更変えられないし、変わらない。
命が()しいなら行かないことをおすすめするよ。

…そうだ。
その招待状、貸して?

いいから。いいから。
悪いようにはしないって。

ありがと。

へぇ。
君の名前、アリスって言うんだ。

ごめん。
勝手に名前見て。

君みたいにかわいい子の名前、気になっちゃったんだもん。
普通に聞いたら聞いたで、ナンパだと思われて教えてくれないだろうし…。

うわっ!
ひっど!

女の子だったら誰でもいいみたいなナンパ野郎じゃないよ。
僕が声かけるのは、かわいい子だけ。

ってか、僕の話なんかどうでもいいの。
大しておもしろくもないんだし。

アリスの招待状と僕の招待状を…こうして…こうっ!

(招待状を燃やす)

証拠隠滅っ!
これで、僕らには招待状が届いてなかったってことにするの。

お茶会の名簿に名前は書かれてるはず。
でも、招待状がそもそも届いてなかったら?
いつ、どこでお茶会があるかなんて、分かりっこないでしょ?
つまり、僕たちに()はないことになる。

ね?
(名案めいあん)でしょ?

ちょっとぉー!
(卑怯ひきょう)』とか言わないでよ。
せめて、『ずる賢い』って言ってよ。

(背伸びする感じで)ん゛ん゛っ……はぁ…。

このあと、どうしよっかな…。
暇になっちゃったし…。

アリスは?
このあとの予定って何かあるの?

そっか…。
僕と同じなんだ。

じゃぁさ、せっかくだし、2人だけのお茶会しない?

なんで『やめとく』って言うの?
別に(あや)しいお店とかに連れてったりしないよ?

僕のおすすめのカフェに連れてってあげる。
隠れ()っぽいお(洒落しゃれ)なカフェなんだ。
そこのケーキが最高においしいのっ!
絶対アリスも気に入ると思う。

ね?
一緒に行こうよ。
ここで出会ったのも何かの縁だし。

僕はアリスと仲良くなりたいんだけどな?

アリスは?
僕と仲良くなるのはイヤ?

だって、お茶会に行くつもりだったんでしょ?
それって、誰かしら相手を求めてたってことじゃん。
なら、僕でもいいんじゃない?
違う?

ねぇ……返事は?

僕と仲良くなりたいのか。なりたくないのか。
どっち?

ん。
じゃぁ、まずは友達からね。

いきなり「付き合え」とは言わないよ。
まだアリスのこと、何も知らないもん。
友達として、アリスのこといろいろ知りたい。
誕生日とか、血液型とか、好きなものとか、嫌いなものとか…。

アリスにも、僕のこといろいろ知ってほしい。
なんでも答えるから、なんでも質問してくれていいよ。

ちなみに、彼女はいないからね。
絶賛大募集中!
アリスが彼女になってくれると嬉しいな。

ちょっ……ちょっとっ!
ごめんってば!
帰ろうとしないで!
今の冗談だから!

…え?
帰ろうとしたの、冗談なの?
めちゃくちゃマジな顔してたから、ガチだと思ったし…。
ビビったぁ…。

アリス、君って人が悪いね。

(アリスと2人で微笑み合う)

まぁ、そんな感じで、これから友達としてよろしく。

(以下、耳元で)さっき、冗談って言ったのは嘘。
本気で、いつか彼女にするつもりだから、その覚悟はしといてね。