約束のチーズ in 煮込みハンバーグ

【パソコンのキーボードを打つ音】

できたーっ!!

(伸びをしてる感じで)ん゛ん゛っ……はぁ…。
もう夕方か…。

【部屋のドアをノックする音】

はーい。

(部屋に彼女が入ってくる)

うん。
大丈夫。
全然邪魔じゃない。

ちょうど終わったとこ。

ほんと、ほんと。
今、確認してもらってる。

もう仕事はしないから安心しろ。
休みが終わるまで、絶対に。

ごめんな。
せっかくの休みなのに、仕事になって…。

『大丈夫』って、物分かりいいフリすんなよ。
全然よくないだろ。

…寂しかったくせに。

分かるって。
お前の彼氏、何年もやってきたんだから。

唇、甘噛みすんな。
傷になる。

それ、お前が何かを我慢してる時の(くせ)

こっち来い。
膝の上、座れ。

(彼女を抱きしめる)

(溜息)はぁ…。
仕事したあとに彼女抱きしめられるとか、どんなご褒美だよ。
控えめに言って、最高…。

一応言っとくけど、休みに仕事しなくて()むように仕事は全部片づけてたから。
毎日残業して、すっげーつらかったけど、お前と過ごす時間の方が大切だから、がんばれた。

で、休みの前日に同僚に言っといたんだ。
「どんなに急ぎの仕事でも回してくんな!」って。

それなのに、『俺じゃないと無理』だとか、『時間がないから大至急頼む』だとか、いいように理由つけてきやがって…。

んー、まぁ…頼られるのは嫌いじゃない。
嫌いじゃないけど!
お前との貴重な時間潰されたんだから、イラつくくらいしても、いいだろ…。

(漂ってきた匂いを嗅ぐ)

なんかいい匂い…。
飯、作ってくれたの?

マジで!?
ありがと。

何、作ってくれたの?

えぇー!?
クイズとか、ナシだろ。

どうしても答えなきゃダメなわけ?

(溜息)はぁ…。
…仕方ない。

(もう1度、漂ってきた匂いを嗅ぐ)

この匂い、ソースっぽいから洋食…肉料理かな…?
…たぶん、俺の好きな物…。

ここまで合ってる?

なんだろ?
俺の好きな肉料理…。

あっ!
分かった!
ハンバーグだ!

もしかして、約束してたチーズ入りのやつ?

やったっ!!
すっげー嬉しい!
ありがと。

ほら、リビング行こ。
早く食いたい。

(自室からリビングへ移動)

(手を合わせて)いただきます。

(モグモグしながら)んまっ!
マジで(美味うま)いっ!

…俺と会わない間に、料理教室とか、通ってた?

なんとなく、そう思っただけ。
また料理の腕上がってるからさ。

…この味なんだよな。
俺が求めてたのは…。

旅行で泊まった旅館の飯も(美味うま)かった。
それはもう感動するほどに。

でも、俺が1番(美味うま)いと思うのは、お前が作る飯だけ。
3つ星レストランのシェフが作った料理よりも、お前が作ってくれた料理の方が何倍も(美味うま)い。

お前がいなかったら、こんなまともな生活してなかったはずだし。
きっと今でも(ろく)に食ってなかったと思う。

この間の電話の時もそうだったけど、俺って食うことに淡白じゃん。
食えるタイミング逃したら別に食わなくていいか、みたいな。
だから、味とかもそこまで気にしたことなくてさ…。

それが、お前の手料理に出会って、(美味うま)いってことがこんなにも心を満たすものなんだって、初めて知った。
あの時の感動、今でも覚えてる。

体の細胞ひとつひとつが喜んでるっていうか…。
今までの俺から新しい俺に生まれ変わるって感じ?

(笑いながら)大袈裟って思うかもだけど、マジでそう感じたんだよ。

お前に出会えてよかった。
すっげー幸せ。
…ありがとな。

あっ……話変わるんだけどさ、前からやってみたかったこと、あるんだけど…。
…やってくんない?

そ。
俺からのお願い。

1つだけ!
1つだけにするから!

あーん、してほしい。

いいじゃん。
減るもんでもないし、一緒にいる時くらい甘えたって。

俺の隣に来いよ。
その方がやりやすいだろ?

グダグダ言わずに、さっさと移動するっ!

(彼女が彼氏の隣に移動する)

ちゃんとフーフーしろよ。

…あーん。

んーーっ!!
うまっ!!

じゃぁ、次、お前の番な。
俺があーんしてやる。

遠慮すんなって。
こういうの、憧れてたんだ。
さすがに外でやるには恥ずかしくてできなかったけど、今は家だから…。

フー、フー。
ほら、あーん。

…どう?
うまい?

『普通』?

ふぅーん。
あっそ。

そういうわりに、耳まで真っ赤だけど?
ほんとは(美味うま)いって言いたいけど、恥ずかしくて言えないとか、かわいすぎだろ。

はい、はい。
そんなことないなら、もう一口いけるよな?

フー、フー。
あーん。

あーぁ…口の横にソース付けて…。
ジッとしてろ。
取ってやるから。

(彼女の口の横のソースを取る)

ほい、取れた。

ん?
さっきまでは甘えたかったけど、今度は甘やかしたいんだよ。

いいから、俺の好きにさせろって。
甘やかされるの、嫌いか?

なら、いいじゃん。

この後の予定だけど、飯食って終わったら、一緒に片付けして。
それが終わったら、一緒に風呂な?

ヤダじゃないっつーの。
甘やかすって言ったばっかじゃん。
お前の全身洗ってやる。

『恥ずかしい』?
おかしなこと言うなよ。
裸見られるより、もっと恥ずかしいことしてんのに…。

ダーメ!
もう決定したことだから。
一緒に風呂に入るってな。

で、風呂入って終わったら、ゴロゴロして、一緒に寝る。

我ながら最高な時間の使い方だわ。
お前もそう思うだろ?

風呂のこと、そんなに根に持つのかよ…。
休みの間だけってことでさ、許してくれよ。
な?

ん。
ありがと。

ほら、口開けろ。
まだ残ってる。

フー、フー。
あーん。

ん?
全部食い終わるまで続くに決まってんだろ。

ほら、もう一口。