警戒心むき出しなのに守ってくれる鼠族男子

(警戒心むきだしな感じで)ねぇ。
ちょっと、そこのアンタ。

そ。
アンタだよ。
アンタ。

さっきからこの辺ウロチョロして、何やってんの?
普通に怪しいんだけど…。

もしかして、不審者…?

『不審者じゃありません!』って言うのは、不審者の証拠だよ。
とりあえず、警備員呼ぶから。

ちょっ…!
俺の体に勝手に触んないで!

分かった。
分かったから。
警備員は呼ばない。
それでいい?

で、ウロチョロしてた理由は何?
ここに来てるヤツらは、人脈広げるにしろ、取引先の新規開拓にしろ、それぞれ何かしらの意図があって来てるのに、アンタの動きはそれとは全然違ってた。

ふぅーん。
迷子…。

いい大人のくせにこんな狭い会場で迷子とか…。
(嫌味100%で)ダッサ…。

べっつにぃー?
嫌味で言ったんじゃないし。
本音を言っただけ。

……ヤベ…。

(彼女の手を取って歩き出す)

こっち来て。
いいから。
この場から逃げるよ。

(溜息)はぁ…。
めんどくさいヤツらに目つけられちゃって…。

あそこでこっち見てるアイツら。
亜人の中でも厄介者扱いされてるヤツらなんだよ。

まだこっち見てる…。
何かやらかしたんじゃないの?
ぶつかって謝らなかったとか、挨拶されたのにシカトしたとか…。
胸に手当てて、よーく思い出してみなよ。

何もないのに目つけられるってことは、イヤな意味でアイツらに気に入られちゃったのかもね。

アイツら、亜人至上主義者っていうか……人間嫌いで有名でさ…。
『人間は奴隷だ!』みたいなことを平気で言っちゃうタイプだから、かかわらないのが一番。

ん?
あぁ、この手はこのまま繋いでていいよ。

さっきはアンタが敵かもしれないと思って警戒してただけ。
俺みたいな鼠族は弱い者の代表みたいなもんで、常に警戒してないと生き残れないんだよ。

そ。
俺は鼠の……ハムスターの亜人。

やめてよ。
鼠でひとまとめにするの。
鼠は鼠でも、いろいろ種類があって、それぞれにプライド持ってんだから。

……別に、次から気を付けてくれればいいよ。

(黙って歩き続ける)

(立ち止まる)

ここまでくれば、いいかな。
追っても来てないし…。

礼とかいいよ。
むしろ、アイツらは俺の敵でもあるから、あの場から逃げるいい口実になって、俺の方こそ助かった。
ありがと。

それよりさ、アンタ…特定の相手、いる?

そ。
彼氏って意味で。

ふぅーん。
いないんだ…。

じゃぁ、俺、立候補していい?

アンタって、俺と同じか、それ以上に弱いじゃん?
自分の周りに対して全然警戒してないし、見てて危なっかしい。
そんなんじゃ、いつか襲われちゃうよ?
俺が言うのもなんだけど、アンタなんかパクッと食べられちゃいそう。

だから、俺が一番近くにいて守ってあげる。

困らせたくて言ったんじゃなくて、ただ伝えたかっただけ。
動物の遺伝子が混じってるからか、運命の相手だと思ったら逃がしちゃいけないって本能に抗えなくて…。

返事は今じゃなくていいから、ゆっくり考えてよ。
アンタが俺とのこと考えてる間、ちょっとずつ俺のこと教えてあげる。
その代わり、アンタのことも教えて?

俺がもっとアンタのことを好きになるように。