(玄関扉の開閉音)
おかえり。
ちょっと待って!
着替えの前にこっち座ってくれない?
着替えなんか後でいいから。
あのさ、先にご飯にしよ?
(彼女を強制的に座らせる)
今日はね、君の大好物いっぱい作ったんだよ。
最後にデザートもあるから楽しみにしてて。
……えっ…食欲ないの?
それって、ひと口も食べたくないってこと?
……食べないなんて、絶対ダメ…。
ご飯食べないのは体に悪いって。
ひと口だけでいいから、食べようよ。
ね?
今日まで黙ってたけど、ここんとこほとんどご飯食べてないでしょ?
あと、寝てもない。
気付いてないわけないじゃん。
そんなゾンビみたいな顔してて、気付かないヤツなんてこの世にはいないって…。
ひどくなんかない。
鏡で今の自分の顔、よーく見てみなよ。
顔色は青白くて、肌はカサカサ、目の下にでっかいクマ…。
ゾンビって例えが1番しっくりくる。
今がんばってることは、ご飯食べる時間も寝る時間も
自分の命を削ってまでがんばらないといけないこと?
別にがんばることが悪いことって言いたいわけじゃないんだよ。
任されたことだから、しっかりやり遂げたいと思うのは当然のことだと思う。
とはいえ、君はがんばり方を間違えてる。
ご飯食べてないし、寝てないから、集中できてないんじゃない?
多少のミスは人間だから仕方ないにしても、いつもはしないような
これ以上、君に無理してほしくない。
このままいけば、絶対倒れる。
今は大丈夫でも、いずれ倒れるよ。
そう遠くない未来にね。
…俺は君には元気でいてほしい。
おいしい物を半分こして「おいしいね」って言い合いたいし、くだらない話をして笑い合いたい。
…今言ったのは、全部俺のワガママだって分かってる。
けど、少しでも、俺のワガママに付き合ってもいいって思ったなら、ご飯食べてくれないかな?
君が元気になりますようにっておまじないかけて作ったから。
えっ!?
ちょっと待って!?
泣かないで!?
ごめん。
ご飯を食べてほしくて、ひどいこと言い過ぎた…。
うぅん。
謝んないで。
君はちょっとがんばり方を間違っただけ。
いっぱいひどいことを言った俺の方が悪いって。
えっと……ティッシュ、ティッシュ…。
はい。
涙と鼻拭いて。
…ひと口だけでも、食べてくれる?
じゃぁ……あーん。
…どう?
おいしい?
謝んないで、って言ったでしょ?
だから、もう謝っちゃダメ。
ごっくんできた?
なら、次いくよ?
はい。
あーん。
あーぁ…顔ぐちゃぐちゃ…。
泣くか食べるか、どっちかにしなよ。
『食べる』の?
だったら、食べられる分だけ食べて。
全部食べようとしなくていいよ。
残りは俺が食べるから気にしないで。
いいんだって。
君がご飯を食べてくれただけで嬉しいだもん。
ありがとね。
食べてくれて。
お願いだから、これからは自分を犠牲にするようながんばり方はしないで。
もっと自分を大事にして。
約束できる?
ん。
約束。
(触れるだけのキス)