なんだかんだ彼氏の世話を焼いてしまうラッコ系彼女

遅かったね。
いっぱい人並んでた?

そっか…。
ありがと。
並んで買ってきてくれて。

お祭りに来たら、どうしてもたこ焼き食べたくって…。
これ食べなきゃ「お祭りに来た!」って感じしないじゃん。

ふふ。
だよね。
やっぱりお祭りにたこ焼きは欠かせないよね。

……ねぇ。
とっておきの場所知ってるんだけど、そこ行かない?
ここじゃ人いっぱいで落ち着かないでしょ?

ん。
こっち。こっち。
ついてきて。

(少し離れた場所まで歩く)

とーちゃーくっ!!
やっぱり誰もいない。

ここね、子供の頃に見つけた私しか知らない秘密の場所なんだ。
しかも正面に花火も見れちゃうオプション付き!

すごくない?

『お(転婆てんば)』とか言わないでよ。
たしかに、子供の頃は男の子たちとキャーキャー騒ぎながら遊んだけどさ…。

でも、大人になった今は(随分ずいぶん)落ち着いてるでしょ?

ちょっとー!
無言はやめてよ。
無言は!

まぁ、いいや。
とりあえず、座ろ。
慣れない浴衣着て歩いたから疲れちゃった。

(2人でベンチに腰かける)

(袋をガサゴソしながら)(あつ)っ!?

あはは…。
ごめん、ごめん。
思った以上にアツアツで、びっくりしただけ。

(袋からたこ焼きを取り出す)

せっかくだし、『あーん』してあげる。
ここなら人いないし、恥ずかしくないでしょ?

お口開けて。
あーん。

(彼氏があまりの熱さに悶絶する)

大丈夫!?
舌ヤケドしてない!?

お水、お水……はい。

どう?
少しは落ち着いた?

舌、ベェーってしてみて。

あぁ……赤くなってる…。
ジンジンしてるでしょ?

できたてって分かってるはずだから、ゆっくり食べればいいのに…。
私、(一人占ひとりじ)めしたりしないよ?

『痛い…』じゃないって…。
ったく、もう…。

もう1回お口開けて?
氷、あげる。
さっき屋台で買ったジュース飲み終わって、だいぶ小さくなったけど残ってるから…。

ちゃんと冷やすんだよ?
噛んじゃダメだからね?
いい?

…このたこ焼き、急いで食べちゃうくらいおいしかったの?

へぇー。
私もひとついただこっと。

(ハフハフ、モグモグしながら)おいしいー!

お祭りの時のたこ焼きって、家で食べるのとは全然違う味だよね。
おいしすぎて、ほっぺ落ちそう。

ん?
もう氷溶けちゃったの?

舌の痛み、少しは(やわ)らいだ?

なら、食べていいよ。
でも、さっきみたいに急いで食べちゃダメ。
ちゃんとフーフーして冷まして食べること。

……何?
お口開けて…。

まさか、また『あーん』してって言うんじゃ…。

子供じゃないんだし、自分で食べなさい。

(溜息)はぁ…。
仕方ないなぁ…。

今日だけの特別だからね?
明日からはちゃんと自分で食べなきゃダメだよ?

一体、いつから私がいないとダメな程の甘えんぼになったんだろ…?
出会った頃はここまでじゃなかったと思うんだけどな…。

ん?
しっかりしてようと、してなくても、君が君であることに変わりないから好きのままだよ。
君の世話焼くの嫌いじゃないし。
そこんとこは、心配しなくても大丈夫。

あ……花火始まったね。
綺麗…。

たこ焼き食べながらおっきい花火見るなんて、すごい(贅沢ぜいたく)してる気がする。

ねぇ。
来年もまた来ようね。

絶対だよ?
約束だからね?

じゃぁ、指切り代わりの…。

…フー、フー。
あーん。