熱深せいじ
voice:熱深せいじ
つゆ-feat.RAiN-
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君の全部は俺の物

ただいま。

(溜息)はぁ…。
疲れた…。

今日は1日外回りで、ずっと歩きっぱなし…。
だから、もう動けない。
ってか、動きたくない。

ヤダ…。
着替えたくもない。
(しわ)になったって、いいよ。
クリーニングに出せば、いいんだし。

どうしても着替えなきゃダメ?

…じゃぁ、キスして?
おかえりなさいのキス。
できれば、おかえりなさいのギューも付けてくれると嬉しいなぁ。

どうせ子供っぽいですよー!
いいじゃん。
ちょっとくらい…。
君に甘えたくなるくらい疲れたの。
今日1日がんばったご褒美、ちょうだい?

(触れるだけのリップ音)

(彼女からのハグ)

あぁ…ヤバイ…。
癒される…。

ヤダ。
まだ動いちゃダメ。

癒されるとは言ったけど、元気になったとは言ってないもん。
もう少しだけ、このままでいさせてよ。
…ダメ…?

ご飯、作ってる途中だったの?
じゃぁ、仕方ないか…。

(彼女を解放する)

あっ!
そう、そう!
今日は君にプレゼントがあるんだった。
ご飯作るの、ちょっと待って。

(鞄をあさりながら)別に記念日とかじゃないよ。
ただ買いたくて、買ってきただけ。

あれ?
このあたりに入れたはず……あったっ!

ごめんね。
鞄の中に(仕舞しま)いこんでたから、袋はちょっとくしゃくしゃになっちゃったけど、中身は平気だと思う。

これ、あげる。
開けてみて。

気に入ってくれるといいんだけど…。

ふふ。
びっくりした?

昨日君が言ってた、気になる新作リップ。
外回りしてたら、微妙に時間()いちゃってさ。
暇だし、ちょっとだけお店のぞいてみたんだ。
そしたら、このリップが並んでて、買っちゃった。

ねぇ。
せっかくだし、塗ってみせてよ。
どんな感じになるか見てみたい。

えぇー!?
塗ってくれないの?

お風呂、まだでしょ?
なら、いいじゃん。
今リップ塗っても、どうせ落とすんだし。

ね?
お願い。

やった!
ありがと。

…ん?
どうしたの?

『欲しかった色と違う』?

……そうだろうね。
その色は俺が君に似合いそうだと思って買った色だもん。

君が最近気に入って付けてる色ね、全然似合ってないよ。
はっきり言って、かわいくない。
浮気相手から貰った物なんでしょ?
その色。

何も知らずに、のうのうと一緒に暮らしてると思った?

…残念でした。

気付いたのは、少し前。
君からいつも使ってるボディーソープと違う匂いがしたのが、きっかけ。

それから、少しずつ情報を集めたんだよ。
君がいつ、どこで、誰と会ってるか。
全部知ってる。

今日も会ってきたんだよね。
その似合わない色のリップ付けてる日は、浮気相手とのお楽しみの日。
浮気してること隠したいなら、徹底的に隠し通さなきゃ。
やり方がぬるいよ。

『浮気なんかしてない』?

ふぅーん。
あくまでシラを切るつもり…。
じゃぁ、俺が持ってる証拠、1つ教えてあげる。

リップの隠し場所はいつも持ち歩いてる化粧ポーチの中。
1番奥に入れて隠してても、1つだけハイブランドだから、すぐ分かったよ。
しかもイニシャル入り。
自分の苗字入れてるあたり、君の全ては自分の物と言わんばかりで…気に()わない…。

そんな(おび)えた顔しないでよ。
君に対して怒ってるわけじゃないから。

…俺は君を許すよ。
こんなに君のことが大好きなんだもん…。

今までだって、1度でも君に怒ったことあった?
ないでしょ?
ね?

さぁ、俺が選んだ色、塗ってみて。
ほら、早く。

あっ!
でも、その前に、付けてるリップ落とさなきゃね。

こっち向いて。
リップ落とすの、手伝ってあげる。

どうやって、って……こうやって…。

(触れるだけのリップ音)

口、開けて。
無理矢理されたいの?

(濃厚なリップ音)

(舌打ち)チッ

君の唇から他の男の味がする。
…すっごくマズい。

早く俺の味にならなきゃね。
リップ貸して。
塗ってあげるから、動いちゃダメだよ。

(彼女にリップを塗る)

うん。
思った通り。
とても似合ってる。

(触れるだけのリップ音)

ふふ。
俺の味になった。

ごめんね。
仕事が忙しくて構ってあげなくて…。
寂しくて、つい浮気しちゃったんだよね?

ちゃんと分かってるから。
大丈夫だよ。

まだ(おび)えた顔してる…。
どうしたら、さっきみたいな笑顔向けてくれるの?

あっ!
浮気がバレたから離婚されると思ってる?

…そんなことするわけないじゃん。
さっきも言ったけど、君のことが大好きなのに、どうして手放さなきゃいけないの?

君は俺のもの。
俺だけのもの。
他の男になんか譲らない。
君がどんなに浮気相手の色に染まったとしてもね。

ねぇ、教えてよ。
君は浮気相手にどんなことされたの?
全部俺が上書きしてあげる。
忘れさせてあげる。

君を気持ちよくできるのは俺だけだって、2度と忘れないように体に覚えさせなくちゃ。
俺のことをあんなにも愛してくれてた、出会った頃の君を取り戻すためにね…。

(濃厚なリップ音) ※ キスのままフェードアウトしてください。