大月 咲弥
voice:大月 咲弥

ある日突然消えた彼女をやっとの思いで探し出した御曹司

(息切れしながら)やっと見つけた…。

俺の前から消えて1週間……今までどこに行ってたの?

『言えない』って、どうして?
俺には話したくないってこと?

そう…。
まぁ、いいや。
やっと君を見つけられたんだもん。

こんなところで立ち話もなんだし、俺たちの家に帰ろう。
それからゆっくり話そ?

ほら、()()ってないで帰るよ。

ん?
『帰れない』って、どういうこと?

あぁ、もしかして俺が怒ってると思ってる?
全然怒ってないから安心して。

だけど、君がいなくなった時は、普段怒らない俺でも、ちょっと怒ったよ。
朝起きたらいつも隣にいるはずの君がいないんだもん。
(家中いえじゅう)探してもいない。
置き手紙の1つもない。
もちろんメールも電話も(つな)がらない。
君と俺を結ぶ糸を勝手に切られたって思って、すごく悲しかった。

でも、1秒でも早く君に会いたかったから、いろんなツテを頼ってすぐに君を探したんだよ。
まさか1週間も時間がかかるなんて思ってもみなかったけど…。

ねぇ……俺、君が出ていきたくなると思うほど嫌がること、何かした?
それなら、そうと言って。
もう絶対しないから。

だから、もう1回、最初からやり直そ?
俺たちの家に一緒に帰ろ?

どうして『ヤダ』って言うの?
俺から逃げないで。

…一緒にいてよ。

えっ……(うずくま)ってどうしたの?
気持ち悪いの?

えっと……えっと……休めそうなところ…。
…仕方ない。

あそこのラブホ、行こ。
何もしないから。
少し休憩するだけ。
ベッドもあるし、ちょっと横になった方がいいよ。
顔真っ青だもん。

『ヤダ』じゃないよ。
今だけは俺の言うこと聞いて。
お願い。

ん。
じゃぁ、行こ。

(少し間を開ける)

大丈夫?
吐きたいのに、吐けないって感じ?

ねぇ…ご飯、ちゃんと食べてる?
少し()せたように思うんだけど…。

えっ…食べてないって、どういうこと?

ごめん。
責めるつもりじゃなくて、君の口から真相を聞きたいだけ。

何を聞いても驚かない。
全部受け止めるから、君が(かか)えてるもの全部話して。

……妊娠!?
君のおなかに、俺たちの子がいるの?
ほんとに?

なら、どうして俺の前からいなくなったの?
この子には父親である俺が必要なはずじゃん。

お見合い…?
もしかして、少し前に実家からかかってきた電話、聞いてた?

そっか…。
だから、君は消えたのか。

……その話ね、白紙になったんだよ。
お見合いする前に、相手の娘さんが逃げたんだ。
彼氏さんと一緒に。
いわゆる”()()ち”ってやつ。

『大好きな人と一緒になれないなら家を捨てます』って書き置き残していなくなったんだって。
その後どうなったかは知らないけど…。

ただ、その連絡をもらった時に、俺も親に宣言したんだよ。
『俺にも心に決めた人がいますから』って。

君は優しいから、きっと俺の家のこととかいろいろ考えて、身を引いたんでしょ?
家柄がよくて、人柄もよくて、俺の隣にいても恥ずかしくないような人が嫁に(相応ふさわ)しい、みたいな…。

バカっ!
それは間違ってるよ。

俺の隣にいていいのは君だけ。
俺の腕の中にいていいのは君だけ。
俺が愛してるのは君だけ。

全部君だけなんだよ。
君と一緒にいられないなら、家なんか捨ててやる。

だから、俺から離れないでください。
ずっと俺の隣にいてください。
君とこの子を守る権利を俺にください。
お願いします。

…ありがと。

体調よくなったら、君の家に(挨拶あいさつ)しに行かなきゃね。
順番逆になっちゃったから、怒られるかな?

『大丈夫』って、ほんとに?
君のお父さんに(なぐ)られる覚悟だけはして行こう…。

俺の方は落ち着いてからでいいよ。
君がどうしても気になるなら俺から伝えておくよ。
(悪阻つわり)ひどいから落ち着いたら行きます』ってね。

っていうか、俺の家に(挨拶あいさつ)するよりも先に買い物しなきゃいけないじゃん。
君のマタニティグッズとか、この子のベビーグッズとか、買わなきゃいけないものたくさんあるよね。

何が必要なんだろう?
全部調べて、リスト作らなくちゃね。

落ち着いていられるわけないでしょ。
…俺が父親か…。
まだ実感()かないけど、すっごく嬉しい。

(彼女を抱きしめる)

(あらた)めてだけど、俺の元に戻ってきてくれてありがと。
俺の子を(宿やど)してくれて、ほんとにありがと。

君も、この子も、世界で1番幸せにするからね。

…愛してるよ。