彦星からは逃げられない

(織姫、彦星に見つからないように家の中に隠れ潜んでいる)

(家の中をガタガタと荒らす音)※以下、荒らしながら

織姫ぇー?

どこにいるの?
隠れてないで出ておいで?

家の中に隠れてるのは知ってるんだからね?

せっかく会いに来たんだから、顔くらい見せてくれない?

(荒らすのを一旦やめる)

(※ 以下、思い込み強めで織姫に恐怖心を抱かせるような感じで)

……あぁ、そういうことか…。
うん、分かった。

俺の愛を確かめるために、かくれんぼしてるんだね。
『ほんとに愛してるならどこに隠れてても分かるはず』って…。

ふふ。
そういうことなら、がんばって見つけなきゃ。
愛を証明するために。

そうだなぁ…。
こういう時、定番なのはクローゼットの中……だけど、もう全部見終わって隠れてないことは確認済み。

となると、あとは普段隠れないような意外な場所…。
トイレ、床下、風呂場…。

あぁ……風呂場か…。
言われてみれば、まだ見てなかったね。

(彦星、風呂場に向かう)

(浴槽の蓋を開ける → 織姫を見つける)

織姫、みーっけ!
浴槽に蓋して、その中に隠れるとか、絶対見つかんないやつじゃん!

でも、ちゃんと見つけたし、俺の勝ちね。

(織姫、怯えた様子をみせる)

 
どうしたの?
そんなに怯えて…。

あぁ、コレ?
ここにくるまでに邪魔してきたヤツら全員始末したから、そいつらの返り血。
織姫に会えるから新しい服買ってかっこよくキメてきたのに、こんなに汚れちゃった…。
汚い姿で会いにきてごめんね。

ん?

うん。
そうだね。
今日は七夕じゃない、なんでもない日。
だから、会えないはず……そう言いたいんでしょ?

織姫の言いたいことは分かるよ。
でもさ、よーく考えてみて。
ほんの少し、周りよりもお互いを愛し合う気持ちが強すぎて仕事もせずにイチャイチャしてただけ。
ただそれだけで、強制的に引き離されて、年に一日だけ、七夕にしか会えなくさせられるとか、普通におかしくない?

ねぇ、織姫。
このまま二人で誰にも見つからない遠いところに逃げちゃお?
で、また一緒に暮らそうよ。
前みたいに…。

……なんで拒否るの?
俺のこと好きだよね?

……『嫌い』?

えっ……ちょっと待って…。
今『嫌い』って言った?

どうして?
皆の前で永遠の愛を誓い合ったじゃん。
死ぬまでずっと一緒にいるって…。

いや、いや、いや。
俺から離れるとか無理。
させるわけないの、分かってて言ってるでしょ?

ってか、さっきからおかしいよ?
俺のこと嫌いって言ったり、俺から離れたいって言ったり…。

離ればなれになって、何かあったんじゃない?

何もないのに、そんなこと言うはずないって。
あんなに愛し合ってたから分かる。
絶対何かあったはず。

……あぁ……そっか。
俺と引き離された後で誰かに洗脳されちゃったんだね。

これもお義父さんの差し金か…。
俺と二度と一緒にいさせないために…。

(憎々しそうに)ほんと、俺たちの邪魔しかしない…。
マジでウザい…。

まぁいいや。
かわいそうな織姫。
でも大丈夫。

(彦星、織姫の手に手錠をかける)

(彦星、自分の手にも手錠をかける)

俺から離れるなんて、許さない。
死ぬまで一緒って誓い合ったんだから。

この世の終わりみたいな絶望した顔しないでよ。
かわいい顔が台無しになっちゃう。

……『鍵』?

そんなもの、持ってくると思う?

仮に持ってたとしても、教えてあげない。
俺が寝てる間に逃げられでもしたら、たまったもんじゃないし…。

さてと……まずは、織姫の洗脳から解いてあげなくちゃ。
時間はたっぷりあるし、ゆっくり洗脳を解いて、俺のことを好きでいてくれた織姫に戻してあげるね。