花束に思いをのせて

(彼女、お店にやって来る)

いらっしゃいませ。
お久しぶりです。

ひと月ぶりですね。
お元気……ではなかったみたいですけど、相当忙しかったんですか?

見れば分かります。
疲れが顔に出てますから。

恥ずかしがらないでください。
ここには俺と貴女しかいませんし、これは俺たちだけの秘密。
絶対誰にも話しませんから、安心してください。

で、今日はどんな花をお探しですか?

……『部屋に飾る花』…。

だったら、明るい感じのがいいですよね。
ひと目見ただけで気分がアガったり元気が出たり、みたいな…。

そうだなぁ……貴女の好みで言うなら、このあたりとかいかがでしょう?

(彼女、花を選ぶ)

この花にしますか?

(独り言っぽく)じゃぁ、これをメインにして、これとこれ……あと、これかな。

……うん。
彼女っぽい。

(独り言終わり)

ん?
これは俺から貴女へのプレゼントです。

だって、今月誕生月でしたよね?
だから、メインに貴女の気に入った花を持ってきて、周りを俺が思う貴女のイメージの花で囲って、花束にして差し上げます。

いいんですって。
俺がやりたくてやるんですから。

本当は誕生日当日にプレゼントしたいんですけど、会えるか分からないですし…。
だったら、今日プレゼントした方がいいでしょう?

少し待っててください。

(作業開始)

(作業を一旦止めて)……あの……手元、ガン見されるとやりづらいんで、店内を見ててもらえませんか…?

別に見ちゃダメというわけではないですが……すごく緊張します…。
ガン見されながら作ったことなんてないんで…。

それに、花束作るところなんて、見てても面白いものではないですよ?

(彼女、見ていたいと主張する)

……分かりました。
貴女が見ていたいならいいですけど、ほんとに面白くないですからね?
つまらなくても文句言わないでくださいよ?

(作業再開)

(作業しながら)花束のプレゼントはただのお節介です。
誕生日は誰にとっても大切な日。
その日が素敵な思い出になるように、お手伝いをさせてほしくて始めたんです。
袖振り合うも多生の縁って言うし、せっかく結ばれた縁を大切にしたくて…。

誕生日くらい、覚えてますよ。
いつも(贔屓ひいき)にしてくれる大事な常連さんですから。

えぇ。
誕生日の話は一度だけでしたけど、教えてくれましたよ。
こうした(何気なにげ)ない会話の中でね。

だからなのか、いつもバイトの子たちに怒られるんですよね。
『店長、口より手を動かしてください!』って。

そうですね。
うちにバイトに来てくれてる子はしっかりした子が多いです。
俺を見て『しっかりしなきゃ!』って思ってるのかもしれないですけど…。

(自虐っぽく)仕事よりもお喋りに夢中になっちゃう、お喋りおじさんなので。

えぇー!?
まだお兄さんでイケますか?
俺くらいの歳だと、世間ではおじさんって聞きましたよ?

(花束完成)

はい。
出来上がり。

いかがでしょうか?
気に入っていただけましたか?

喜んでいただけて、よかったです。

ほんとに、お金はいらないです。

言ったでしょう?
俺からのプレゼントだって。
今日はサービスです。

どうしても気になるなら、また近々花を買いにきてください。
それでチャラってことで…。
ね?

はい。
どうぞ。

(店長、彼女に花束を渡す)

……お誕生日おめでとうございます。
貴女にとって、素敵な1年になりますように。

あと……この花束で少しでも貴女が元気になりますように。