初めてのはなればなれ

(彼、玄関扉の向こう側で、母親と話す)ちょっと出てくる。

何の用か知らないけど、アイツに呼び出された。

うん。
分かってるって。
すぐ戻る。

(彼の家の玄関扉の開閉音)

(彼、外に出る)

『きた、きた』じゃないっつーの。
いきなり『今、話せない?』なんてメッセージ飛ばしてくんなよな。
すぐ見れたからよかったものの、風呂とか入ってたら、どうすんだよ。
ずっと外で待ってるつもりだったのか?
ったく…。

……それにしても、こんな時間にお前から連絡なんて珍しいじゃん。
眠れない?

そっか…。

……引っ越しの準備、ちゃんとできたか?
忘れ物は?

ほんとに?
絶対忘れ物のひとつやふたつはあるだろ。

なんてったって、お前だもん。
大事な時にきっちり準備できたためしないじゃん。

滑り止めの受験の時の受験票だったり、本命の受験の時の筆記用具だったり…。
大事なところで抜けてるんだからな。

……でも、まぁ……今度はさすがに大丈夫か…。
あの頃より大人になったし…。

……とうとう明日か…。
お前がここを離れるの。

家が隣ってのもあるけど、小・中・高ずーーーっと一緒で、すぐそこにお前がいるのが当たり前だったのに、明日からは違うのって、なんか変な感じ。

…寂しいに決まってんだろ。
いつも一緒にいて、くだらないことでケンカできるヤツと離れるんだし、寂しくないわけはないって。

明日からどうやって過ごしていけばいいか、ちょっと不安だわ…。

ふふ。
確かに。
お前の方が俺なんかよりも、何倍も不安だよな。
初めての一人暮らしで、これから何もかも自分でやんなきゃいけないんだし。

俺が一人暮らし?

……んー、まぁ……やりたい・やりたくないで言えば、やりたいかな。
経験積む意味で。

バーカ。
料理のひとつやふたつ、作れるわ!

子供の頃に作ってやったことあっただろ。
オムライス。
お前が『食べたいから作って!』ってワガママ言って、仕方なく作ってやったアレだよ。アレ。
最後の最後で、うまく卵かけらんなくてグチャグチャになったけど…。

あの頃であれだけのもん作れれば上出来だろ。
見た目なんていくらでも(誤魔化ごまか)しが効くんだし、味さえよければいいんだよ。

……だとしても、一人暮らしをすれば、きっと1日も経たずに、母さんの偉大さを感じることになるんだろうな。
仕事して疲れてるのに、飯作って、風呂の用意して…。
普通に考えてすごいよな。

俺が母さんだったら、疲れてるのに家のアレコレやんなきゃなんないとか、めんどくさくて適当になりそう…。

『あり得そう』って、なんだよ。
お前だって、同じようなもんだろうが…。

……寂しくなったら、いつでも帰ってこいよ?
一人暮らし始めても、お前の居場所はここにあるから。
おじさんもおばさんも、きっと待ってる。
もちろん、俺も。

…明日何時出発?

はぁ!?
バカか、お前!
俺と話してないで、さっさと寝ろ!

眠れなくても、とにかく寝ろ!
いいな?

ん。
また明日。

おやすみ。

(双方の玄関扉の開閉音)