えあー
voice:えあー

最初のキスはとびきり甘いチョコ味

ふぅ…。
やっと終わったか。
すごい量だったな…。
これで最後か?
本当に?

じゃぁ、さっさと提出してこい。
待っててやるから。

さてと、帰るか。
ずっとがんばってたあいつに飲み物でも買ってやるか。
確か、あいつが好きな甘いカフェオレが……ぁっ、これだ!

ちゃんと提出してきたか?
なら、帰り支度済ませてこい。
俺はここで待ってるから。

はい、これ。やるよ。
今日がんばった分のご褒美。
素直に受け取っとけ。

今日はいつになく冷えるな…。
せっかくだし、温かいうちに飲んで体温めてから帰るとするか。

俺?
俺はブラックコーヒー。
お前の好きな甘いカフェオレは俺は飲めないからな。
俺が甘いの苦手なの知ってるだろ?

今日は朝から災難だったよ。
うっかりバレンタインだってこと忘れてたから、どこもかしこも甘い空気で満たされてて…。
ちょっとした拷問かって思ったくらいだった。

って、お前…。
俺の話聞いてたか?
俺は甘い物が苦手だと言ったはずだが?
『受け取ってください』ってどういうことだ?

『お世話になりましたチョコ』?
甘い物であることに変わりないのか…。

ん?ちょっと待て。
『お世話になりました』って俺の元から離れるってことか?
そんなの俺は許さないからな。

お前は俺が後輩の中で唯一認める奴なんだから。
真面目だし、俺の言うことはちゃんと聞くし、口答えしないし、大人しいし、仕事は早くて正確だし。
でも、しっかりしているようで抜けてるところがかわいい…。
い、今のは、なしっ!
ちょっと口が滑っただけだから。

(ちょっと拗ねて)
…こういう時、揚げ足取ってくるのはかわいくないぞ。

うるさいっ!
顔真っ赤でかわいいとか言うな!

この際だからはっきり言っておく。

(ちょっと間を開ける)

……好きだ。
いつからお前のことを意識し始めたのか分からないが、お前のことが好きだ。
だから、離れるとか絶対に許さないからな!

ぇっ、意味が違う?
ただ、『一年間お世話になりました』って意味なだけで、『これからもよろしくお願いします』ってことなのか?
俺の側から離れないんだな?

(全力で安堵して)
なんだ…よかった…。

(逆ギレな感じで)
紛らわしいことするなよ!
勘違いして、勢いで告白しただろうが!

それで、返事は?
告白の返事。
まぁ、OK以外認めないけど。

うん、知ってた。
お前が俺のこと好きなの、気付いてた。
でも、いつ告白しようか悩んでたのは事実。

勢い余って今日するとは思わなかったけど…。
ムード、全然なかったな…。

あのさ、チョコ、貰ってもいい?
ありがとう。

【包装紙を破く音】

ほら、口開けて。
チョコ、食え。
いいから。

チョコ、少し溶けたか?
じゃぁ、そのままチョコ溶かしてろよ。

(リップ音)チュ

うわ…甘…。
でも、悪くない甘さだな。
もう一回。

(少し長めのリップ音)チュ

なに、顔真っ赤にしてるんだよ?
誰か来るかもしれないって?
ここには俺達以外誰もいない。
もう皆帰ったからな。
残ってるのは俺達二人だけ。

それよりも、俺達の最初のキスはチョコ味だな。
これからお前がチョコと食べる時は今日のことを思い出すよ、きっと。

そんなことないって?
いや、思い出すよ。
目を蕩けさせて、『もう一度』って強請るような顔で俺を見てるの気付いてる?
そんなにさっきのキス、気持ちよかった?
もう一度してほしいなら、おねだりしてみて?
俺が好きそうな感じに上手におねだりできたら、いっぱいキスしてやるよ。

そんなにしてもらいたかったんだ。
エッチだな。
はい、チョコ食べて。

じゃぁ、もう一回な。
俺から離れられなくしてやるよ。
(リップ音)チュ