ぷれんと VOICE / Plenty of Japanese Audio Stories
voice:ぷれんと VOICE / Plenty of Japanese Audio Stories

いつも無理しているのに大丈夫としか答えない部下を心配する上司

【電話の着信音】

(電話越しの声)
ぁっ、俺だけど。
お疲れ。
今、大丈夫か?

仕事、無理してないか?
ここのところ、俺が出張やら会議やらで、まともに会社に戻れてないからお前に皺寄せがいってるだろ。
適当に他の奴らにも仕事振って、お前の担当分を減らすんだぞ?

ちゃんとやってるから大丈夫って…。
本当か?
いつもそう言いながらも自分で抱え込んでるから…。
少しは周りの奴に頼れよ。

まぁ、いいや。
今からそっちに一度顔出す。
あと一時間くらいで着くと思うから。
じゃぁ、また後で。

(会社に帰社)
お疲れぇ~。
これ、出張のお土産。
皆で分けて食べてくれ。

(部下の元に来る)
お疲れ。
俺の仕事、回せ。
ヤダじゃないだろうが。
あと少しでできるって、残りどれくらいだ?
…これ、まだ時間かかるだろ。

お前の仕事は?
全部終わらせたんだな?

なら、半分寄越せ。
二人でやれば早く終わるんだから。
今のお前に拒否権はないからな。
これは上司命令。
ほら、さっさとしろ。

(背伸びしながら)
ん゛~、やっと終わった。
ごめんな。
今日も遅くなって。

お前に随分負担かけてたな…。
『そんなことない』って…。
いい加減強がるのやめろ。

俺はちゃんと知ってるから。
お前が毎日進捗状況の報告をメールしてくれてたけど、他の奴らからも報告メールは受け取ってたんだ。
だから、部署の現状は把握してたんだよ。

俺の分を全部お前が負担してたこと。
他の奴らが『手伝う』って言ってくれたのに、お前は『ありがとう』って言うだけで誰にも手伝わせなかったってこと。
全部抱え込んだことで、毎日残業して、家に帰るのはシャワーを浴びに帰る程度だってこと。
まともに寝てないから日が経つにつれてミスが増えていったこと。
……全部知ってた。

本当に寝てないんだな。
メイクで隠してるつもりかもしれないけど、目の下のクマ、隠しきれてないぞ。
こんなになるまで俺はお前に甘えて、無理させて…。
ごめんな。

何でこんなに無理したんだ?
言ってくれよ。

…だんまりなんだな。
部下の管理もまともにできない俺のこと、見損なったか?

お前のことは俺がこの部署に来た時から評価してる。
一番できる奴だから、勝手に俺の右腕だと思ってるくらいには。

そんなお前だから、俺がいない時は周りの奴らをうまく使って仕事をすることもできると思ってた。
でも、現実は全部お前が抱え込んでた。

もし、お前が倒れたりしたら俺はどうしたらいいんだよ…。
お前も俺もいない時、この部署をうまく回してくれるのは誰だよ。
誰もいないんだよ。
お前以上の奴なんて…。

お前が俺の代わりをしてくれてると思ってたから安心して出張や会議に行けてたのに、もう今度からは必要最低限なもの以外は断ることにする。
『止めてください』って…。
だって、お前は俺がいないと無理ばかりするなら、俺がここにいればいいだけの話だろ?
俺がこの部署のトップでいる間は、誰にも無理はさせない。
これは俺がこの部署のトップに辞令をもらった時に決めたことだから。
だからもうお前は気にせず、自分の担当分の仕事だけやってればいいから。

今度は『ごめんなさい』?
何に謝ってるんだ?
俺はお前に謝ってほしいわけじゃないから。
今まで甘えて悪かったな。

ん?何?
ごめん、聞こえない。

『大丈夫か』って聞かれたから『大丈夫』って答えてた…?
あ゛……ごめん、俺の聞き方が悪かったんだな…。

そうだよな。
お前なら『大丈夫か』って聞いたら、大丈夫じゃなくても『大丈夫』って答えるよな。
本当は辛かったのに言い出せなかったんだな…。

次からは、ちゃんと言えよ。
…いや、違うな。
俺がもっと早く気付いてやるべきなんだよな。
きつい言い方して、無理矢理言わせてごめんな。

いっぱい泣け。
今だけ俺の胸、貸してやるから。
もう誰もいないから思う存分泣いてすっきりしたらいい。
こんなに泣く程、辛かったんだな。
頑張り屋なのはお前のいいところだけど、悪いところでもあるから。
今度からお前のこと、よく見ておくことにしておくよ。

…さっきも言ったけど、無理はさせないってのは事実だから。
今度からは辛いって言えよ?
他の奴らに辛いって言いにくいなら、俺にだけはちゃんと言ってくれ。
これでもお前の上司なんだから。
ん、いい子。

ぁっ、言い忘れてたけど、明日から一週間、お前休みだから。
『はぁ!?』じゃない。
今まで休日出勤、残業の嵐だったんだ。
体を休めないと、いつか無理した皺寄せがくるんだよ。
ある日突然ぶっ倒れられるよりも、休める時にゆっくり休んでくれた方がいいんだよ。
それに、俺もしばらく会議とか入ってないから。
だから、安心して休んでくれ。
な?

あ~ぁ、せっかく綺麗にメイクしてたのに泣いたから全部落ちたな。
簡単にメイク直せるか?
お前に無理させたお詫びに美味い物奢ってやる。
何でもいいぞ?

焼肉?
そんな物でいいのか?
回らない寿司とか、もっと高級な物でもいいんだぞ?

(小声で)
色気より食い気か…。

(笑いながら)
何も言ってないって。
いつものお前が戻ってきたな。
いいぞ。焼肉な。

待っててやるから、さっさとメイクを直して来い。
あんまり遅いと置いていくぞ。