(彼女がやって来る)
おっそーい!
待ちくたびれたぁー!
なーんてね。
冗談。
俺もちょっと前に来たばっかで、全然待ってない。
一度言ってみたかったんだ。
このセリフ。
ってか、浴衣着てきてくれたんだ。
別に着て来なくていいって言ったのに…。
……でも…ありがとな。
大変だったろ?
着付けとか、ここまで来るのとか…。
マジで?
なら、いいけど…。
似合ってるよ。
髪型も、メイクも、浴衣も全部。
全部……お前に似合ってる。
(照れ隠しな感じで)あ゛ぁ゛ー……そろそろ行く?
もうすぐ花火始まるし…。
こっち。こっち。
穴場は、あそこ。
学校の屋上。
開けといてもらった。
ちょっとしたツテ使って。
(ゆっくり歩き出す)
暗いから足元に気を付けて。
っと……あっぶな…。
言った先から転ぶとかあり得ないっつーの…。
ん。
…危なっかしいから、手繋いでやる。
転んで、ぐちゃぐちゃにしたくないだろ?
だったら……ん。
(彼女と手を繋ぐ → 校内に入る)
…なんかさ、夜の学校って新鮮じゃない?
昼間のいろんな音で溢れてる賑やかな学校しか知らないからさ…。
…しんと静まり返ってて、普通に不気味すぎない?
なんか出てもおかしくない雰囲気というか…。
ホラーで夜の学校が舞台になる理由、なんとなく分かった気がする。
よくあるじゃん。
七不思議みたいな怪談話。
理科室の人体模型が動きだすとか、音楽室の肖像画の目が動くとか、ピアノが鳴り出すとか…。
……あれ?
もしかして、怖い話苦手だったりする?
(いたずら小僧っぽく)そういえば、今上ってる階段。
上りと下りで段差が違うって知ってた?
上りの方が一段多くてさ…。
その理由が…。
(彼女が怖がって立ち止まる)
ごめん。ごめん。
あまりにビビってるから、つい…。
怖がらせようとか考えて、連れてきたわけじゃなくて…。
ただほんとに、学校の屋上から見る花火がいい感じに綺麗に見えるから、一緒に見たいだけ。
屋上まで、あとちょっとだから、がんばって上ろ?
(ゆっくり上りだす)
今の怖い話?
俺の作り話。
実際にあるわけないじゃん。
あったとしても、学校の怖い話あるあるってヤツだよ。
(屋上に到着)
ん。
到着。
えっと、花火大会の方角は……あっちか…。
(花火が打ち上がり始める)※ 最後まで打ち上がっている
おっ!
始まった。
ギリギリだったけど、間に合ってよかったぁ…。
(残念そうに)…やっぱ、距離があるからちっちゃいな…。
ん?
別に礼とかいらないって。
特別なことなんか、全然してないし…。
お前が喜んでくれれば、それでいい。
(ボソッと)好きな子に喜んでもらうのが一番だからな…。
えっ!?
今の聞こえた!?
ナシ!ナシ!
聞かなかったことに……しなくていい…。
……今言ったことが全て。
学生の頃からずっと……お前が好き。
なのに、お前ときたら俺の気持ちも知らないで、勝手に地元から離れてくし、なんとかして会いたいから毎年クラス会という名の飲み会を開いては誘っても断るし…。
正直、ショックだった。
でも、今回花火大会に誘うことができて、こうやって二人きりにもなれて…。
今までのが全部チャラになるくらい嬉しい。
……全然何とも思ってなかったヤツからこんなこと言われても困ると思うけど、改めて言わせて。
好きです。
俺と付き合ってください。
…返事は今じゃなくていい。
向こうに帰る日に聞くから、それまでに答え出しといて。
今は目の前の花火を楽しも?
(耳元で)答え、ちゃんと聞くまで帰さないからな?