辛党な彼のためにいっぱい考えてバレンタインを用意していた猫系彼女

(ゲームをしている)
 
 (彼氏:ずっと自分を見ている)

何?
こっち見ないで。
気が()る。

「ゲームしてる時は集中させて」って言ってるよね?

あーぁ……負けちゃった…。
せっかくいいとこまで行ったのに…。

 (彼氏:「ごめん…」)

謝るくらいなら、最初から邪魔しないで。

で、何?
用があったから、私のこと見てたんでしょ?

 (彼氏:「もうすぐバレンタインなの、知ってる?」)

あぁ……バレンタイン、ね…。
今年はチョコ用意してないよ?

 (彼氏:「えっ!?」)

だって、君、甘い物好きじゃないじゃん。
好きじゃない物貰うとか、罰ゲームでしかないし…。
だから、用意してないよ。

 (彼氏:「そっか…今年はないんだ…」)

えっ……チョコ、欲しかったの?

 (彼氏:「…うん」)

ほんとのほんとに?

 (彼氏:「ほんとのほんとに」)

(小声で)…そっか…。あとで買いに行く?
それとも、このまま渡しちゃう?
んー……どうしよう…。

 (彼氏:「…何、ブツブツ言ってんの?」)

ん?
あぁ、こっちの話。
気にしないで。

…バレンタインだけど、一応用意はしてたの。
チョコじゃない、別の物をね…。
バレンタインとは程遠いような物だけど…。

 (彼氏:「別の物って何?教えて?」)

今は内緒でもよくない?
当日までのお楽しみってことで…。

 (彼氏:「えぇー!?ヤダ。無理。待てない。今すぐ教えて!」)

今すぐ言うの?
聞いて後悔しないでよ?

 (彼氏:「するわけないじゃん」)

(ボソッと)……超激辛(煎餅せんべい)…。

ほらー!
『マジ…?』って顔したの見たからね。
だから、言いたくなかったのに…。

言っとくけど、意地悪とかで選んだわけじゃないよ?
これにはちゃんとした理由があるの。

バレンタインの準備をするにあたって、まず始めに、君が甘いの好きじゃないの知ってるから、甘い物は選択肢から(はず)したのね。
チョコとか、飴とか…。

でも、コーヒー飲むじゃん?
ブラックで。
「甘い物好きじゃなくても、コーヒーと合わせたらいいかな」とかも考えてたの。

で、いろいろ調べてたら、(辛党からとう)な人向けみたいなページを見つけてね。
見たら、真っ赤なハート型の(煎餅せんべい)があったの。
ペロッと舐めただけでも口の中が大変なことになっちゃうような、いろんな唐辛子がついてるらしくて、「コレだ!!」って思って、ポチっちゃった…。

唐辛子の名前?

んー……なんだっけ?
『世界一辛い唐辛子』って書いてたような……あんまり覚えてない。

どこ行っても辛さMAXを選ぶからどんなに辛くてもいけるかなって何も考えずに買ったのが悪かったよね…。
せっかくのバレンタインだし、やっぱ甘い物の方がいいよね…。
こんな嫌がらせみたいなの、願い下げだよね…。

ごめんね。
気が()かなくて…。
ちゃんとした甘い物買ってくるから、当日楽しみにしててよ。
ね?

 (彼氏:「うぅん。激辛煎餅でいい」)

えっ……いいの?

 (彼氏:「うん」)

こんな嫌がらせみたいなのでも?

 (彼氏:「うん」)

君が最初に言ってた、チョコとかとは真逆だよ?

 (彼氏:「分かってるって」)

食べた後でのクレームは受け付けないよ?
後悔しても知らないからね?

 (彼氏:「もちろん。君が俺のために選んでくれたんだもん。全部俺が食べる!」)

(小声で)君のそういう優しい気遣い、ズルい…。

 (彼氏:「何か言った?」)

何でもない!

それより、バレンタイン当日は体調万全にしててよね?
世界一辛い唐辛子(なみ)に燃えるように熱い私のハート、受け取ってもらわなきゃなんだから。