ふむとねこ
voice:ふむとねこ

一緒に花火見よ?

(お祭り会場にて)

A:ちょっと!
  どこ行くの?

  さっきから何度も声掛けてたのに…。
  俺がここにいるって全然気付いてなかったでしょ?

  ったく…。
  人の流れに乗って行くのはいいけど、ちゃんと周り見ないと。
  俺が気付かなきゃ、迷子になってたよ?

  待たせないようにって急いで来てくれたのは嬉しいけどさ…。

  …はい、嘘ぉー。
  嘘()くなら、もう少し上手に嘘()きなよ。
  走ってきたの、バレバレだからね。

  息、上がってるよ。
  急いで来なきゃ息上がることもないでしょ?

  「ゆっくりでいいよ」って言ったのに、なんで急いで来ちゃうかな?
  女の子が遅れるのは全然気にしないのに…。

  だって、俺のために時間をかけてお(洒落しゃれ)してくれるんだもん。
  何時間でも待つに決まってんじゃん。

  『今』?

  全然待ってないよ。
  1時間くらいしか…。

  だーかーらー!
  謝らなくていいって。

  それより、その浴衣。
  新しいよね?

  もちろんすぐ気付いたよ。

  すっごく似合ってる。
  かわいいよ。

(B、登場)

B:(わざとらしく)あれー?
  2人ともこんなとこで何してるの?

  もしかして、花火見に来たとか?

A:(独り言っぽく)げっ……最悪…。
  今日だけは会いたくなかったのに…。
  なんで来てんだよ。
  ストーカーか…。

B:なんか言った?

A:いえいえ。
  何も。

  お久しぶりです。
  おっしゃる通り、お祭りデートですよ。
  見れば分かるでしょ?

B:へぇー。
  いいなぁ。

  俺も一緒に行っていい?

A:ダメ!
  絶対ダメ!

  デートって言いましたよね?
  せっかくの2人きりの時間を邪魔しないでください。

B:そんな冷たいこと言わないでさぁ…。

  (彼女に向かって)あっ、浴衣かわいいね。
  すっごく似合ってるよ。

A:その言葉、さっき俺が言いましたから。
  遅かったですね。

B:早いとか遅いとか関係ないでしょ。
  「かわいい」って伝えてあげることが大事なんだもん。

  (彼女に向かって)ねぇー?

A:割り込んできておいて、勝手に2人だけの空気作り出すのやめてもらっていいです
  か?

B:心が狭いなぁ…。
  そんなんじゃモテないよ?

  (彼女に向かって)ねぇ。
  お腹減らない?
  あっちにたこ焼きの屋台あったから半分こしよっか。

A:ちょっ!?
  勝手に連れて行こうとしないでもらえます?
  ”俺と一緒に”お祭りまわって、花火見ることになってるんで。

B:えぇー!?

  (彼女に向かって)俺と一緒にお祭りまわろうよ。
  欲しい物、何でも買ってあげるよ。

  たこ焼きでも、焼きそばでも、かき氷でも…。

A:子供じゃあるまいし、物で釣ろうとしないでください。
  ってか、それくらいなら俺にだってできますよ。

B:じゃぁ、何を君は買ってあげるの?

A:そうですね…。

  (彼女に向かって)……チョコバナナ…好きだったよね…?
  子供の頃、お祭りに行く度にいつもチョコバナナ買ってもらってたような…。

  うん。
  だよね。
  ハムスターみたいに、ほっぺパンパンに(頬張ほおば)ってたの、覚えてるもん。

  分かってるって。
  もうあの頃とは違うことくらい。

  だから、今日は俺と半分こしようよ。
  チョコバナナ。

B:うわぁ…。
  子供の頃の思い出とか、同い年の特権出してきた…。
  ズルじゃん…。

A:そっちが先にお金持ってるアピールしてきたんでしょ?
  ほんの数年、先に生まれたからって。

B:事実を言ったまでだし。

  ってか、チョコバナナってエロくない?
  食べてるとこ見て、何想像するんだか…。

A:あなたと一緒にしないでもらっていいですか?
  『あーん』してもらおうとか、あわよくば間接キス狙ってるのとか…。
  (下心したごころ)見え見えですからね?

B:そ、そ、そんなこと狙ってないし?

A:動揺してるの、分かりやすっ!

  大人の余裕はどこへやら…ですね。

B:ここにあるしっ!
  大人を(揶揄からか)うもんじゃありませんっ!

A:だったら、お祭りデートは邪魔しないでください。

B:それとこれとは話が別。

A:いやいや。
  言ってること全然違うじゃないですか。

  大人の余裕があるなら、今回は俺に譲ってください。

B:ヤダね。
  大人とか子供とか関係ないし。

  (彼女に向かって)ねぇねぇ。
  仕事で疲れた心と体、ギューして癒してよ。

  昔やってくれたみたいに『元気になぁーれ!』って。

A:どさくさに(まぎ)れて、ハグしてもらおうとか…。
  (図々ずうずう)しいにも程がありますよ。

B:大人は(図々ずうずう)しくないと生きていけないの。

  よかったね。
  ひとつ勉強になって。

A:いいから!
  離れてくださいっ!

  (彼女に向かって)今は、この人に近づかないで。
  あまりに危険すぎる。

  セクハラされるよ?
  今みたいに…。

B:変な言いがかりはやめてくれない?
  セクハラじゃなくて、ただのスキンシップ。

  それに、外ではしないよ。

A:『外では』ってことは家の中とかだとやるってことですよね?

B:さぁ?

A:(彼女に向かって)ほらね?
  危ないから、こっちおいで。

B:ちょっと待った!
  いくら幼馴染とはいえ、近すぎ!

A:俺らはいつもこれくらいですよ?

  (彼女に向かって)ね?

B:……うん。
  君の言いたいことは、よーく分かった。

  いつまでも子供だと思ってたけど、それはたった今終わりにするよ。

  正式にライバルとみなしてあげる。

A:ありがとうございます。
  これで正々堂々戦えます。

B:(彼女に向かって)ん?あぁ、ごめんね。
  ほったらかしにして。

  男同士の話してただけ。

A:それよりも、大事なこと忘れてる。

A:(2人同時に)俺とこの人、どっちと一緒に花火見たい?
B:(2人同時に)俺と彼、どっちと一緒に花火見たい?