鈴鳴れん
voice:鈴鳴れん

血の繋がりがないことを知った妹に自分の知ってる真実を話す兄

どうした?
暗い顔して…。

相談?
いいけど…。

俺で答えられることなら…。
で、何?

『本当の家族はどこ?』か…。

…そっか。
知っちゃったか。

お前も大きくなったし、話してもいいかもしれないな。

俺から話していいことか分かんないけど、俺が知ってること、全部教えてやる。

(端的たんてき)に言うと、お前は俺や父さんや母さんと血の(つな)がりはない。

そして、お前の本当の両親はもうこの世にはいない。
交通事故で亡くなったらしい。
(唯一ゆいいつ)生き残ったのが、お前。

お前の本当の母親と母さんが親友で、まだ赤ちゃんだったお前が施設に()れられそうになってるところを養子として(うち)に引き取ったんだよ。

父さんも母さんも、お前のことは自分の子供だと思って育ててると思うよ。

『毎日怒ってくる』?
それはお前が悪いことをしてるからだよ。
お前のことが嫌いで怒ってるんじゃない。

俺だって、お前くらいの頃、よく怒られたよ。
今のお前みたいに、勉強なんて全然しないで、毎日夜遅くまで遊び歩いて…。
毎日父さんと(なぐ)()いの(喧嘩けんか)してたし、母さんには暴言()きまくってた。
まぁ、いわゆる反抗期ってやつ。

今思えばいい思い出だけど、当時はお前みたいに『なんで俺ばっかり…』って(窮屈きゅうくつ)な思いしたもんだよ。

でも、今なら当時の父さんと母さんの気持ち、少し分かる。
俺のことを愛してくれてたからこそ、俺が悪いことをしたら体を()って()めようとしてくれてたんだって。

愛してくれてなきゃ、自分の体を()る必要なんてないだろ?
(干渉かんしょう)しなければいいんだから。

だから、お前は父さんからも母さんからも、ちゃんと愛されてるよ。
もちろん俺もお前のこと大好き。

ここからは俺の(ひと)(ごと)な。
恥ずかしいから、聞き流してくれていいよ。

お前が家に来た日のことは今でも(鮮明せんめい)に覚えてる。
雪が降ってる、特別寒い日だった。

俺はずっとテレビ見てて、一人で(留守番るすばん)させられてた。
しばらくしたら、父さんに支えられた母さんが泣きながら家に帰ってきて、その腕にはお前が抱かれてて。
俺は二人に『おかえり』って言えなくて、ただ(茫然ぼうぜん)と立ち()くしてた。

そしたら、『今日から家族になるのよ』って母さんが()いてるお前を俺に見せてくれたんだ。
赤ちゃんのお前は、ぷにぷにのほっぺを真っ赤にして、すやすや寝てて。
ちょっといたずらしてみたくて、ほっぺつついたら、俺の人差し指、ギュッてしてくれたんだ。

『この子が俺の妹なんだ』、『俺がちゃんと守らなきゃ』って思った。
その時、俺の中に兄貴としての自覚が生まれたんだと思う。

いきなり新しい家族だって言われても、普通は簡単に受け入れられないものなのかもしれないけど、俺は(わり)とすんなり受け入れられたんだ。
初めて見る赤ちゃんだったからっていうのもあるかもしれないけど、なにより、お前がすごくかわいかったから。

父さんも母さんもお前をすごくかわいがってた。
二人共、本当は女の子が欲しかったみたいだから。

(念願ねんがん)の女の子だからこそ、二人はお前が心配なんだよ。

むしろ、心配してくれる人がいるのって幸せなんだからな。

俺なんて、もう心配なんてしてもらえない。
仕事でどんなに遅く帰っても、誰も起きて待っててくれない。
暗くて寒い家に帰るのって、どれだけ(さみ)しいことか分かるか?

お前はどんなに遅く帰っても、父さんも母さんも起きてくれてる。
心配してくれてる。
今は鬱陶しいって思うかもしれない。
でも、それがどれだけ幸せなことか、いつか分かる日が来るよ。
きっと…。

はい!
これで俺の話は終わり。

あぁ~、(がら)でもなく恥ずかしい話したなぁ…。

これで少しは不安なくなったか?

…そっか。
それならよかった。

もう父さんと母さんに心配かけさせるなよ?
夜遊びしたい(年頃としごろ)なのは分かるけどさ…。

勉強も遊びも(程々ほどほど)にな?

分かればいいよ。

皆、お前を愛してるから。
それは事実だから。

お前の胸に(きざ)んでおいてくれ。
な?