人それぞれの幸せの形

【玄関扉の開閉音】

おかえりー。
今日もお疲れ様。

………どうしたの?

『何が?』じゃないでしょ。
つらそうな顔して。

そんなことなくないでしょ。
(無理矢理むりやり)笑って(誤魔化ごまか)そうとしても(無駄むだ)だからね。

とりあえず、ソファー座って。
いいから、座って。

【ソファーに座る音】

泣いたね?
目元に涙の(あと)がある…。
君が泣くなんて、よっぽどのことだったんでしょ。
つらいこと言われたの?

言いたくないことは、言わなくていいよ。
無理に聞こうとは思ってないから。
言えることだけでいいから、言ってくれると嬉しいな。

…うん。
ゆっくりでいいから、俺に教えて。

(相槌数回打つ)

『子供を持たないと幸せになれない』か…。

その場では、笑って受け流そうとしたんでしょ?
よくがんばったね。
…泣いていいよ。

(彼女の背中をトントンする)

今も昔も結婚したら子供がいて当たり前みたいな考えが固定観念としてあるから仕方ないよ。
(みんな)(みんな)、そういう考えとは思わないけどね。

俺もね、さんざん言われてきたんだよ。
君と結婚する前は『相手がいないなら紹介しようか?』とか『結婚はいいぞー』とか…。
結婚してからは『早く子供を作れ』とか『(親御おやご)さんは孫を見たがってるはずだよ』とか…。
(笑いながら)言われるたびに、『大きなお世話っ!』って心の中で叫びながら、聞き流してるけど。

………あのさ、君が子供を欲しがらないのって、ご両親のことがあるからでしょ。
結婚の(挨拶あいさつ)に行った時に、なんとなく感じた。
で、勝手に納得してた。
『なるほどな』って。

もしも、自分が親になった時、自分が親からされてきたことを子供にやってしまいそうで怖いんでしょ。
…違う?

別に君を()めようとしてるわけじゃないよ。
子供を持たないことに関しては、俺ら2人でちゃんと話し合って納得して決めたでしょ。

そもそも、子供を持たないことが不幸なんて、誰が決めたの?
そんなの個人の価値観の問題じゃん。
他人に決められる(筋合すじあ)いないんだよ。

…今の君は、子供がいないことを不幸に感じてる?
俺と2人だけで過ごしてきた日々は不幸だった?

うん。
違うよね。

俺も君と2人だけの生活、毎日が幸せだよ。
一緒においしい物食べて、ちょっと遠くにデートしに行って、たまに1人の時間も(満喫まんきつ)できて…。
そんな毎日がすごく幸せ。
『子供がいなくても、こんなにも幸せなんだぞ』って、胸を張って言えるよ。

まぁ、子供がいたら、また違った幸せがあるのかもしれないけど、俺は今のこの幸せで十分。

だから、今度からは聞き流せばいいよ。
で、今日みたいなこと言われたら、こう言い返してやるの。
『私には私の幸せがありますから、あなたには関係ありません』ってね。

どうしても気になるなら、また俺に言って。
君の不安を全部吹き飛ばしてあげるから。
ね?

…やっと笑ってくれた。

(妻を抱きしめる)ギュー

その笑顔、好き。
大好き。

…ねぇ。
もう少しだけ、抱きしめたままでもいい?

この幸せな時間をもう少し()みしめさせて。