風邪ひき彼氏は錠剤をまとめて飲めない

(玄関扉の開閉音)

……ただいま…。
仕事、早退してきた。

たぶん、風邪。
今日の仕事始まってすぐくらいから寒気してきて、頭痛くて、熱っぽくて…。
昼過ぎたらもっと悪くなってって、咳とか鼻水とかも出てきて、『周りにうつす前に帰れ』って言われて、帰ってきた…。
朝起きた時は平気だったのに…。

一応、帰りに病院も寄ってきた。

病院でも検査したけど、『風邪でしょう』って言われて、薬もらった。

薬?
…んと……何だっけ?
熱下げるのと、鼻水止めるのと、咳止めるのと……なんかいろいろ…。

ご飯は……いらない…。
食欲ない…。
薬飲んで寝る…。

どうしても食べなきゃダメ?
ちょっとだけでも?

んんー……分かった…。
食べる…。
食べるから、リクエストしていい?

卵入ってるお粥…。
アレ、食べたい。

じゃぁ、部屋着に着替えてくる…。

(彼、自室に行って部屋着に着替える)

(彼、リビングに再びやってくる)

…ねぇ。
俺、死んじゃうかも…。

関節痛いし、頭ガンガンするし、すっごい寒い…。
もう無理…。

熱…?
病院では37.5℃だったよ。

…測るの?
今?

……ヤダ…。

だって、体温計の数字が病院の時よりも上がってるの見たら、もっと具合悪くなりそうじゃん。
そんなの知りたくないもん。

……お粥食べるのに測んなきゃいけないの…?

(拗ねて)……意地悪…。

(熱を測り始める)

お粥、あとどれくらいでできる?

ん。
それまで横になってる。

座ってるのも、つらくなってきた…。

(体温計が鳴る)

体温計、見てぇ…。
俺、見たくない。

どう?
やっぱ、熱上がってる?

なんで教えてくれないの?

そんなに熱高いの?
ねぇ?ねぇ?

(彼女、キッチンに移動)

(ボソッと)むぅ…。
お粥で話を変えたぁ…。
すっごくズルい…。

(彼女、お粥を持ってリビングにくる)

お粥、できたんだ…。

……あーん。

食べさせてくれないの?

ほんの少し動くのもつらい病人だよ?
俺。

…食べさせてくれるよね?

ちゃんとフーフーしてよ?

……あーん。

(モグモグごっくんする)

うん。
おいしい。

もうひと口ちょうだい。

あーん。

(モグモグごっくんする)

ごちそうさま。
残りはまた起きたら温め直して食べるから、そのままにしといて。

……薬、飲まなきゃ…。

(薬局でもらった袋からシートを取り出す)

えっと……これと、これと…これか…。

うーわ…こんなに錠剤飲まないといけないとか、最悪…。

(シートから錠剤を取り出す → 1錠ずつ飲む)※錠剤をいくつ飲むかはお好みで。

…何?
肩震わせて、笑って…。

何もないことなくない?
言いたいことあるなら、言えば?

……うるさいなぁ…。
まとめて錠剤飲めないの。
1錠ずつじゃないと無理。

小さい頃からこう。
まとめて飲むの、怖くない?
「喉に詰まらせたら…」とか考えるとさ…。

だったら、君はまとめて飲めるわけ?

ふぅーん。
あっそ。

粉は、錠剤よりもヤダ。
口の中いっぱいに広がって、気持ち悪くなるもん。

……どうせ、ワガママ放題なお子ちゃまですよ。

(完全に拗ねて)ふんっ!
薬も飲んだし、もう寝る!
おやすみっ!

(独り言で)元気になった時、今の仕返し、絶対してやる…。
覚えとけよ…。