(街でデートしてる二人)
水族館、楽しかったねぇ。
ペンギンのお散歩とか、イルカショーとか…。
また一緒に来ようね。
絶対だよ?
約束。
それよりも、歩き疲れてない?
ちょうどそこにカフェがあるし、休んでいこっか。
(カフェに入る)
どれにする?
先に選んでいいよ。
…俺?
俺はねぇ……期間限定のヤツかな。
限定って、試したくなるじゃん?
で、君は?
ん。
了解。
買ってくるから、先に席取っててくれる?
ごめんね。
ありがと。
(少し間を開ける)
お待たせ。
はい。
君の分。
(ひと口飲んで)おいしい!
やっぱ限定にして正解だったなぁ。
ちょうどいい甘さが疲れた体に染みわたるぅー。
……は?
ちょっと待ってよ…。
『あなたは誰?』って普通にひどくない?
俺は君の彼氏だよ?
彼氏の顔忘れちゃった?
違うなら、なんで俺が傷つくようなこと言うの?
(溜息)はぁ…。
あーぁ……こんなに早くバレちゃうなんてなぁ…。
君の言う通り、俺は君の彼氏じゃない。
彼氏なのは俺の片割れ。
双子なんだ。
アイツから聞いてない?
そっか…。
パッと見た目、そっくりでしょ?
親以外で区別できる人はいない。
それくらい、そっくり。
なのに、なんで分かったの?
バレないように細心の注意を払ってたんだけど…。
あぁ……好みの問題か…。
盲点だった…。
アイツのしゃべりとか雰囲気とか似せることに精一杯で、そこまで気が回ってなかったなぁ。
たしかに甘いの苦手なアイツがこんな甘い物を選んだりしないよね。
さすが彼女。
ちゃんと彼氏の好みまで把握してて、えらい。
でも、もしかしたら、アイツもたまには甘い物飲んだりするかもしれないじゃん?
その時は、どうするつもりだったの?
謝ったところで許してくれるほど、アイツは優しくないよ。
(彼女が席を立つ)
待ちなよ。
どこ行くの?
なんで帰るの?
帰るには早すぎる時間じゃない?
もっとデートしようよ。
分かった。
分かったから、落ち着いて。
デートはここまで。
あんまり大きい声出したら、周りの人の迷惑になるよ?
とりあえず、座って。
立ったままだと目立つし…。
(彼女が席につく)
怒るのは当然だと思うけど、いきなり帰るとか、ひどくない?
今の今まで、ずっと楽しかったじゃん。
水族館にもまた来ようね、って約束してくれたじゃん。
全部嘘だったの?
まぁ、嘘ついてたのは俺の方が先だけどさ…。
こうでもしないと俺の欲しい物は手に入らないんだもん…。
アイツは子供の頃からいつも俺が欲しい物ばかり手に入れてた。
服も、おもちゃも、友達も……好きな人さえも…。
皆アイツの周りに吸い寄せられるように集まってた。
同じ顔なのに、俺はぼっち。
どうしたら俺もアイツみたいになれるんだろうって考えて、ひとつの答えに行き着いたんだ。
「アイツの代わりになればいい」って。
そしたら、おもしろいように俺の周りにも人が集まってきて…。
もう最高な気分だったよ。
あとは、好きな人……そう、君を手に入れるだけ。
あのさ、さっきからアイツのこと『彼氏』って呼んでるけど、付き合ってるって思ってるのは君だけだと思うよ。
アイツにとっての君はただの都合のいい女の子のうちの一人ってだけだから。
これは嘘じゃないよ。
ほんとの話。
君以外にも女の子はいっぱいいる。
たしか……日替り彼女って呼んでたっけ。
毎日違う女の子と適当に遊んで、ヤるだけ。
特定の相手は作らないって言ってた。
信じられないなら、今、ここで連絡取ってみればいい。
きっと電話には出ないよ。
(彼女が電話をかける → 電話が通じない)
ね?
言った通りだったでしょ?
……大丈夫?
顔色、悪いよ?
きついこと言うようだけど、アイツのことは諦めた方がいい。
このまま思い続けても、いいことなんか、ひとつもない。
…どうしても諦めるのが無理って言うなら、俺にしなよ。
俺なら君を悲しませたりしない。
傷つけたりもしない。
24時間いつ連絡くれてもすぐ返事するし、すぐ駆けつける。
君を一人ぼっちにはさせない。
(おかしそうに笑いながら)冗談や勢いでこんなこと言うわけないじゃん。
本気だよ。
ほ・ん・き。
その証拠に、君のことなら、何でも知ってる。
名前はもちろん、生年月日、血液型、身長、体重、スリーサイズ、ブラのカップ、服のサイズ、靴のサイズ、好きな物、嫌いな物、最近のお気に入り、あとは…。
やだなぁ…。
そのゴミ虫を見るような目で俺のこと見るのやめてくれない?
好きな人の情報はどんな小さいことでも知りたいと思うのは当然でしょ?
今は俺を通してアイツを見れてればいい。
俺のことも好きじゃなくていい。
これから好きになってもらえるように努力する。
……アイツの分まで俺が愛してあげるから……今すぐ『うん』って頷いて?