(彼女がキッチンで料理中 → そこにやって来る彼)
もうお昼ご飯作ってんの?
まだ早くない?
…お弁当…?
これ持って、どこか出かけるの?
出かけないのに、お弁当作ってるの?
なんで?
…お花見?
このあたりは、もう散って葉桜だよ?
…『全部分かった上でお花見する』って、どういうこと?
説明してくれる?
全然分かんない…。
(相槌数回)
なるほど。
桜の動画を見ながらお弁当食べてお花見気分を味わうってことね。
それはいいにしても、都合よく桜の動画とかある?
あるの!?
ふぅーん。
ちょっと見せて?
へぇー。
結構全国各地の桜の動画があるんだね。
俺がどれ見るか決めていいの?
んー……じゃぁ、これっ!
この動画の桜ね、俺の地元の桜で、結構有名なんだよ。
…お弁当、もう完成?
だったら、お昼には少し早いけど、食べちゃおっか。
のんびり桜の動画見ながら。
じゃぁ、お弁当、リビングに持ってくね。
飲み物は…ジュースとお茶、どっちにする?
お花見といえばお酒だけど、休みとはいえ、さすがに昼間っから飲むわけにはいかないでしょ。
ん。
了解。
(リビングに移動)
お弁当よし!
飲み物よし!
あとは…お菓子忘れてた!
分かってるって。
お弁当食べる前に、お菓子食べないから。
(お菓子を取りに行って戻ってくる)
これでよし。
準備はいい?
お花見、始めるよ?
(動画視聴開始)
綺麗だねぇ。
桜。
ここの桜?
何回か見に行ったことあるよ。
最後に行ったのは、たしか……小学校低学年の頃だったかな…?
その年を最後に家族でお花見しなくなったんだよね。
原因は、俺。
迷子になったんだよ。
ちょうど行った時が満開の時で、人がすごくて…。
絶対に手離すなって親に言われてたのに、離しちゃって…。
気付いたら、俺一人。
泣けど叫べど、はぐれた親とは会えなくて…。
巡回してた係員の人が迷子の俺をたまたま見つけてくれて、迷子案内に連れてってくれた。
そこにちょうど親も来てて、こっぴどく怒られてから、我が家のお花見はなくなりましたとさ…。
おしまい。
このことがあってから、人ごみが苦手になってね…。
でも、お花見とか花火とか、風物詩的なものは別。
そういうのは実際見て感じたいし…。
(独り言っぽく)…やっぱ、動画じゃなくて、ちゃんと見に行きたかったなぁ…。
ごめんね。
俺の仕事の都合がなかなか合わないせいで、お花見行けなくなっちゃって…。
大丈夫じゃないのに『大丈夫だよ』って言わないでよ…。
だって、君が『大丈夫だよ』って言う時は、だいたい大丈夫じゃない時だもん。
俺に余計な心配をさせないために、自分の気持ちを隠そうとするおまじないの言葉。
ほんとはお花見行くの、すっごく楽しみにしてたんでしょ?
新しい服まで買ってたの、知ってるんだからね?
…仕事ばっかで、ずっとほったらかしにして、ごめん。
長い間、寂しい思いさせて、ごめん。
どうお詫びすればいいか…。
(部屋のクンクン匂いを嗅ぐ)
…ん?
なんかいい匂いする…。
なんの匂いだろう?
花……かな…?
桜の匂い…?
…ルームフレグランスか…!
(胸いっぱいに匂いを吸う)
このお花見計画した時に、少しでも雰囲気出すために買ってきてくれたの?
ありがと。
その気持ちが嬉しい。
(触れるだけのキス)
来年はちゃんとお花見行こうね。
今日みたいにお弁当持って…。
仕事は何とかする!
絶対に!
……俺も君ほどじゃないにしろ、結構楽しみにしてたんだから…。
実は、君に内緒でいろいろ計画してたんだよね…。
あんまり遠くまで行くのは疲れるだろうし、近場の桜の穴場を調べてみたりとか、近所の公園でも夜なら誰もいなくて月明かりでの夜桜できるなって考えたりとか…。
結局全部パァになっちゃったけど…。
はぁ……マジでかっこつかなすぎ…。
あっ……いいこと思いついちゃった…。
俺的には、かなりいいこと。
聞きたい?
来年の春、ここ行かない?
そ。
今見てる動画の桜。
俺の地元に見に行こっか。
旅行とか全然してなかったし、久しぶりに遠出したくない?
…というより、君と一緒に見たい。
この桜を。
あの時の悪い思い出を君と一緒に桜を見て、いい思い出で上書きしたい。
俺のワガママに付き合わせるみたいになっちゃうけど…どうかな…?
イヤなら、イヤって言って。
この近くでお花見しよ。
…いいの?
ほんとに?
じゃぁ、ワガママついでに、もうひとつ。
再来年は君の地元の桜を見に行きたいと思っちゃったんだけど、ダメかな…?
(嬉しそうに)……ヤバい…。
どうしよう……二年分の春の予定できたとか、楽しみすぎるんだけど…。
…今夜寝られるかな…?
うるさいなぁ…。
遠足前日の小学生とか言わないでよね。
それだけ楽しみなんだから、仕方ないじゃん。
君は楽しみじゃないわけ?
…ふふ。
でしょ?
これからいっぱい春の思い出作ろうね。