(テレビを見ている)
ん?
何?
歯磨き?
あぁ…まだしてない…。
これ、見て終わったらするよ。
ちょっと!
何でテレビ消すの!
今いいところだったのに…。
膝ポンポン叩いて、どうしたの?
膝枕してくれるの?
どうして?
…っていうか、何で俺のハブラシ持ってるの?
『歯磨きしてあげる』?
いや、いや、いや、いや。
自分でやるから、いい。
子供じゃないから。
それくらい自分でできるから。
だから、俺のハブラシ返して。
ね?
お願い。
(拗ねた感じで)
どうして返してくれないの?
『綺麗に磨けてないから』?
そんなことないよ。
ちゃんと磨けてるもん。
この間、歯医者さん行った時『磨き残しがあります』とは言われたけど…。
あの時はたまたま磨けてなかっただけ。
それに、その時、ちゃんと磨き方教えてもらったし。
教えてもらった磨き方で毎日ちゃんと磨いてるよ。
だから、大丈夫だよ。
君に歯磨きしてもらわなくても。
歯磨きくらい自分でできるから。
ハブラシ、返して!
『素直に歯磨きされなさい』って…。
何が何でも君に歯磨きしてもらわないと俺は解放されないの?
(溜息)はぁ…。
仕方ない…。
今回だけだからね!
次は絶対ないからね!
…お邪魔します。
(膝枕してもらって歯磨きされる)
【歯磨きの音】
【口をゆすぐ音】
うわ…歯、ツルツル…。
口の中、自分で磨いたのと、全然違う感じ。
自分で磨いても、ツルツルになるんだけど、なんか違う感じがする。
人に磨いてもらったからかな?
誰かに歯磨きしてもらったのなんて、幼稚園以来だなぁ…。
あの頃は、母さんに磨いてもらってたんだ。
小学生になってからは歯磨きしてもらうのは卒業したけど、まさか大人になって歯磨きしてもらう日が来るなんて思ってもみなかった。
自分の口の中じゃないみたい。
不思議な感覚。
…ねぇ、チューしたい。
せっかく君に磨いてもらったから、お礼にチューしたい。
ダメ?
歯磨きしてくれて、ありがと。
(リップ音)
(耳元で)
今日みたいに時間があったらまた歯磨きしてね。
新しい性癖の扉、開いた責任、取ってね。