天蘭-soran-
voice:天蘭-soran-

「遠距離恋愛はもう限界…」な年下彼氏

(スマホのアラームの音)

(音を切る)

…もう時間切れか…。
なんで楽しい時間ってあっという間に過ぎちゃうんだろうね?

ずっとずっと続けばいいのに…。

ねぇ。
これで最後にするから、ギューってしていい?

あれ?
なんで分かったの?
ギューってして離すつもりなかったって…。

(たくら)むなんて人聞きの悪い…。
計画的犯行と言ってくれる?

冗談はさておき……5分だけ、ちょうだい。
5分したら離すから。

うん。
約束。

(スマホでアラームをセットする)

(彼女を抱きしめる)※ 以下、抱きしめたままお願いします。

(重めの溜息)はぁ…。
遠距離恋愛、嫌ぁーい…。
離れたくない…。
明日も明後日も会いたい…。
またしばらく会えなくなるのヤダ…。

君の『そんなことないよ』は信じない。
だって、前も同じこと言ったもん。
なのに、会えたのは何ヶ月後?

仕事なのは分かるよ。
分かるんだけど……今年に入ってからは毎回だから、さすがにキツい…。

平気なわけないよ。
平気な顔してたのは、君に変に気を(つか)わせたくないから。
ほんとは、すっごくつらかったんだよ?

何もしないと君のことばっか考えちゃってつらすぎるから、ここ1ヶ月くらいは毎日バイトに没頭してた。

大丈夫。
勉強の邪魔になるようなシフトはしてないよ。
学校ある時は終わってからラストまで、何もない休みの日は丸1日ずっとバイトしてただけ。

怒んないでよ…。
こうでもしないと、自分で自分をコントロールできなくなって、君に迷惑かけちゃいそうだったんだし…。
たぶん、何もしてなかったら、5分に1回メッセージ飛ばして、1時間に1回電話してたと思う…。

…会社の人はいいなぁ…。
君と毎日何時間も一緒にいられて…。
普通にズルい…。

男とか女とか関係なく、君と同じ時間に、同じ空間で、同じ空気吸ってることが気に入らない。

俺が手に入れたいってずっと願ってるものを、会社の人たちは願うことなく、簡単に手に入れてるんだよ?
例えるなら、超レアなものをゲームでドロップしたり、ガチャで1発で引き当てたりしてるってとこかな。

分かる?
俺の言いたいこと。

……ダメだなぁ…。
さっきから子供っぽいことしか言ってない…。

きっと会社では、俺みたいな子供っぽいヤツはいなくて、なんでもそつなくこなすかっこいい男の人ばっかなんだろうなぁ…。

そんなことなくないよ…。
君に近づく男の人が俺より年上ってだけでも不安なのに、俺の知らないとこで君が誘惑されてないか、心配で心配で…。

やっぱ、自分より年上の人って、かっこいいじゃん?
自分の知らないことも知ってるし、いろんな経験値も高いし…。
その点、俺なんてまだ学生だから知らないこと多すぎるし、全然経験値足りないし、頼りになんないし…。
いつか君から『別れよう』って言われないか不安で押し潰されちゃいそう…。

えっ…俺、カッコ悪くないの?
こんな子供っぽいこと(散々さんざん)言ってるのに?

…本気で言ってる…?
俺の機嫌取りで言ってるわけじゃなくて…?

じゃぁ、俺のこと、好き?

ほんとに好き?

会社で1番のイケメンの人に口説かれても俺のこと捨てたりしない?

…そんな人が君の会社にいるか知らないけど、ものの例えだよ。

ほら。
答えて?
会社で1番のイケメンより俺のことを選んでくれる?

……えへへ。

よし。
決めた。

来月、そっちに行く。
で、ペアリング買いに行こ。

あっ…もしかして、ペアリングよりネックレスの方がいい?

いや…なんか『ペアリングはちょっと…』みたいな空気出てたから、イヤだったかなって…。

別にペアリングじゃなくて、ペアネックレスでもいいよ?
でも、ネックレスだと周りにあんまり見せつけられないからなぁ…。
俺としては、ペアリング一択なんだけど…。

見せつけてほしいから。
君には俺がいるって周りの人たちに分からせなきゃ。
じゃないと、いつか誰かに取られちゃいそうな気がして…。

()けの意味と……婚約の予約の意味で、付けてほしい…。

ずっと付けててほしいから、シンプルなのがいいよね。
あとは、君の誕生石も入れたいなぁ。

外側にワンポイントで入れるのもいいけど、内側に入れるのもいいかも…。
俺と君のイニシャル入りで。

2人だけの秘密っぽくて、特別感増さない?

お金なら大丈夫。
さっきも言ったけど、バイトに没頭してたおかげで結構貯金できたんだ。
そこそこいいブランドのもの買えると思う。

いいの。
俺がしたいから。

これは必要経費。
無駄遣いじゃない。
だから、俺のやりたいようにやらせて?
もうしばらくはこの生活が続くわけだし、お互い不安にならないためにもね。

ん。
ありがと。

(スマホのアラーム音)

もう5分か…。
早いなぁ…。

(彼女から体を離す)

帰したくないけど、約束だから仕方ないか…。

忘れ物ない?

じゃぁ、駅まで一緒に行こ。
送ってく。

(耳元で)早く大人になって、バンバン稼げるようになったら、婚約の約束の指輪じゃなくて、婚約指輪を贈るから。
その日まで、もう少しだけ待っててね。