小鳥遊きの
voice:小鳥遊きの
やぴさん。
voice:やぴさん。

新しい恋のはじまりは苦いキス

あれ?
こんなとこに、珍しい人が……。

ここ、喫煙室ですよ?
君、禁煙してませんでした?

へぇー……やめたんですか…。
それはよかった。

この世の中、喫煙者は(肩身かたみ)が狭いですから。
1人でも仲間がいると心強いんですよ。

…ご一緒してもいいですか?

(タバコに火を付けて、一服する)

……何があったんですか?

『彼氏がタバコ嫌いだから禁煙します!』って言ってたのに、おいしそうに吸ってるので…。
何かあったと思わない方がおかしいでしょう?

僕でよければ、話聞きますよ。

(数回相槌を打つ)

元彼とはいえ、君が付き合ってた人なので悪く言いたくはないですが、クズすぎです。
同じ男として、ムカつきます。

だって、そうでしょう?
『好きだけど、別れよう』って意味が分かりません。
好きなんだったら、別れる必要ないじゃないですか!
別れる理由として適当すぎる!
それだったら『ほかに好きな人ができた』って言われた方がマシですよ。

今まで()くしてきた君の気持ちをないがしろにしすぎてて…。
あまりにもひどい…。

あっ……すみません。
感情的になりすぎました。

泣きそうな顔しないでください。
むしろ『捨ててやった!』くらいの気持ちでいていいんです。

…こら!
卑屈になりすぎるのは、よくありませんよ。

君はとても魅力的です。
がんばり屋さんだし、一緒にいて楽しいし…。
何より、思いやりがある。

今回はつらい別れだったかもしれませんが、いい勉強だったと思って次の恋に()かせばいいだけのこと。
早く忘れるに限ります。
ね?

次は素敵な恋ができますよ。
僕が保証します。
もっと自信を持ってください。

……僕…ですか?

何年も彼女はいません。
いつも仕事を優先させてしまって、彼女を怒らせてしまうんです…。
「今回こそは…」と思うんですけどね…。

それに、君と違って、タバコやめられないんですよ…。
最近は、男女問わずタバコ嫌いな人が多いですから…。
よく『タバコ臭い』って、イヤな顔をされるんです。

結果、お互い小さな不満が積もり積もって、最終的に別れることになってしまって…。

なので、恋愛は諦めました。
恋愛不適合者なんです、きっと。
君みたいに理解ある人と付き合えれば違うのかもしれないんですけど…。

はぁっ!?

いやいや…。
落ち着いてください。

『保証する』とは言いましたけど、それは(言葉ことば)(あや)で…。
お互いフリーだからいいかもしれませんが、さすがに、部下に手を出すのはヤバイでしょ…。

そりゃ、君が彼女だったら、すごく嬉しいです。
喫煙者仲間だし、初対面の頃からずっと気になっていましたから…。

だとしても、ほんとに付き合っていいんですか…?
僕のこと、何も知らないでしょ?

…ふふ。
ごめんなさい。
笑ったりして。

今、君が言ったことは、全部上司としての僕。
プライベートな僕は、そんなできた人間ではないですよ。

…プライベートな僕を知りたいんですか?
教えてもいいですけど……代わりに、やりたいことやってもいいですか?

じゃぁ、少し僕の方に近づいてください。

2人きりになってから、ずっとこうしたかった…。

(濃厚なリップ音)

いきなりキスして、すみません。
どうしても抑えられなくて…。

これがプライベートの僕です。
強引で、ワガママで、どうしようもない…。

キス、(にが)くなかったですか?
タバコ吸った後だから…。

僕が吸ってるタバコは君が吸ってる甘くてライトなタバコではないので、もし、僕と付き合うなら、毎回、今みたいな(にが)いキスになりますけど…。
それでもいいんですか?
こんな僕と付き合って、後悔しませんか?

あぁ……どうしよう…。
幸せすぎて、顔がヤバイです。
あんまりこっち見ないでください。
恥ずかしい…。

あっ!
そうだ。

ちょうど明日2人とも休みですし、今夜、僕の家に来ませんか?
僕のこと、いろいろ教えてあげます。
あーんなことや、こーんなことを…ね…。

君のことも、教えてください。
好きなこと、嫌いなこと、ほかにもたくさん…。

甘くて長い夜を過ごしましょうね?