ふむ
voice:ふむ

みかんを「あーん」したら変なスイッチが入っちゃった猫系彼氏

(自室からリビングにやってくる)

(背伸びしてる感じで)ん゛ん゛…はぁ…。

…疲れたぁ…。

あっ…みかん食べてる。
珍しい…。

だって、家で果物食べてることってなくない?
買うこともないしさ。

あぁ……仕送りの中に入ってたんだ。
なるほどね。

おいしい?

そっか。
よかったじゃん。

俺にも分けてくれるの?

…ありがと。
でも、俺はいいや。

別にみかんが嫌いってわけじゃないんだけど、()くのが嫌いなの。
手がみかん臭くなるし、めんどくさいし…。
君が()いてくれたら食べるけど…。

えっ……()いてくれるの?
じゃぁ、貰う。

ん?
仕事?

一応、終わったかな。
もうちょっと詰めたい感じではあるけどね。

それより、今はゲームしたい!
ゲーム!

この間話してた賭け、忘れてないよね?
ゲームで勝った方が負けた方を1日好きにできるってやつ。

ちょっとー!
自分が俺よりゲーム弱いからって、なかったことにしようとしないでよね。

ハンデの1つや2つ、あげるよ。
それでも余裕で勝てる自信あるし。

うん。
ほんと。

どんなハンデが欲しいの?

(相槌数回打つ)

…いいよ。
そのハンデで。

あとで「やっぱ、ハンデなし!」とか言わないって。
そんなこと言ったら、めちゃくちゃかっこ悪いじゃん。

…あーん。

食べさせてよ。
手、汚したくないの。

なーに?
ニヤニヤしちゃって…。
どうせ、良からぬこと考えてるんでしょ。

(溜息)はぁ…。
何を言い出すかと思ったら…。

甘えたいわけでも、”かまちょ”なわけでもないから。
手が汚れるのがイヤなだけ。

その顔、ムカつく…。
『はいはい。分かってる』みたいなさ…。

…ちょっ!
何、勝手に食べてるの?
それ、俺のために()いてくれたんでしょ?
だから、俺が食べる。

…あーん。

んっ!
おいしーっ!
このみかん、すっごく甘いね。

次ちょうだい。
…あーん。

んんー。
ほんと、おいしい。

まだ残ってる?

えぇー!?
なんでこれが最後の1個なわけ?
1人で食べすぎでしょ。

まぁ…たしかに…。
この仕送りは君の実家からの物だけどさ…。
こんなおいしい物、(ひと)()めはよくないと思いまーす!

(ひと)()めした罰は受けてもらうよ。

関係なくないの。
俺も食べたかったもん。

食べ物の恨みは怖いって昔から言うでしょ?
知らないの?

とりあえず、お(しゃべ)りなお口はチャック、しよっか。

(濃厚なリップ音)

……ふふ。

ごめん。ごめん。
久しぶりのキスがみかん味って、なんかいいなって思っただけ。

初めてのキスはイチゴ味って言うじゃん。
甘酸っぱい感じでさ。

それが、大人になったら、()いも甘いも知った上での、(後味あとあじ)スッキリな爽やかな感じなんだなぁって思ったら、笑えてきたの。

もっとキスしてていい?

ちょっとハマったかも…。
みかん味のキス。

せっかく、おいしいみかん食べたんだし、もっと味わいたいから。
満足するまで、味わい尽くさせて。

…君の唇で。

(濃厚なリップ音) ※ キスしたままフェードアウトしてください。