ねぇ、ちょっとこっち来て。
洗い物はあとで手伝うから。
ソファーに座って。
(彼女がソファーに座る)
単刀直入に聞くね。
ずっと気になってたんだけど、リストバンドの下にある手首の絆創膏、どうしたの?
『何のこと?』って、とぼけるても無駄だよ。
君が隠そうとしても俺は知ってるからね。
『引っかけた』って、どこで?
会社?
君、事務職だからほとんどパソコンと睨めっこのはずじゃん。
おかしいよね?
嘘吐かないで。
正直に言って。
別に、君を咎めようとか、怒ろうとか思ってないから。
ただ真実を知りたいだけ。
だから、俺に教えて?
…切っちゃったんだね。
絆創膏、はがしてもいい?
(絆創膏をはがす)
傷、新しいね。
今日も切っちゃった?
そっか…。
傷はそこまで大きくない…か…。
消毒はした?
してないの!?
ちゃんとしないと、化膿しちゃうよ。
ちょっと待ってて。
(救急箱を取りに行く)
お待たせ。
じゃぁ、消毒するから、手首出して。
ちょっと沁みると思うけど、我慢してね。
どう?沁みる?
もう少しだから我慢してね。
新しい絆創膏貼って…はい、おしまい。
(彼女の頭を撫でる)よし。よし。
よくがんばりました。
ねぇ、ギューってしてもいい?
(彼女を抱きしめる)ギュー
どうして、こんなことしちゃったのか聞いてもいい?
無理に聞こうとするつもりはないよ。
ただ、どうして俺に相談してくれなかったのかなって思って…。
話したくなければ話さなくていいから。
(相槌を数回うつ)
そっか…。
生きるの、辛くなっちゃったんだ。
ごめんね。
君がそんなに辛い思いしてるのに、俺、全然気付かなかった。
切りたい衝動に駆られることはある?
だいぶ治まったんだ…。
よかった…。
消毒してる時に気付いたんだけど、いっぱい痕があったってことは、昔からやってたの?
学生の頃から…。
そんな頃から、何度も切ってたんだね。
辛かったね。
相談できる人は……いないか…。
君って、溜め込んじゃうタイプだから、ちゃんと見てるようにしてたんだけど、俺もまだまだだったね。
ちょっと前から悩んでるかなぁとは思ってたんだけど、いつか君から話してくれると思って、待ってたんだよ。
それが悪かったね。
少し強引でも聞きだせばよかった…。
『ごめんなさい』って君が謝ることは何もないよ。
何か悪いことをしたの?
『手首切ったこと』?
それは君にとっては悪いことなの?
違うよね。
君は生きるために、それをしなきゃいけなかったんでしょ?
自分を痛めつけることで、吐き出せないストレスを少しでも吐き出そうとしたんじゃない?
本気で死のうとしたら、そんなにたくさんの躊躇い傷はないはずだから。
まぁ、本気で死のうとして、手首切ったとしても、俺が見つけて死なせないけどね。
(めちゃくちゃ真剣に)
お願い。
もう一人で悩まないで。
俺は、優柔不断で、決断力に欠けてて、頼りないから、君の役に立てないかもしれない。
それでも、俺、君の彼氏だから。
話くらいは聞けるよ。
……あのね、俺、君の笑顔、めちゃくちゃ好き。
その笑顔を守れるなら、何でもするから。
君にはいつも笑っていてほしい。
だから、俺に君を守らせて?
ありがとう。
全力で君を守るから。
だから、君も俺と約束して?
辛くなったら、その気持ちを俺に吐き出して。
全部受け止めるから。
君の全部を受け止めるから。
だから、もう自分を傷つけるのは止めて。
ね?
約束だからね?
(話を切り替える感じで)
じゃぁ、洗い物の続きしようか。
俺も手伝うから。
二人でやればすぐ終わるでしょ。
それが終わったら、一緒にお風呂に入って、ギューして寝よう。
今夜は君と離れたくないから寝るまでずっと一緒にいようね。
大好きだよ。