(片付け作業をしている。彼女には気付いていない)
(彼女がお店に入ってくる)
すみません。
もうラストオーダーの時間過ぎてるんすけど…。
(彼女:「えっ…あっ…ほんとだ…。すみませんでした…」)
(声の主が彼女であることに気付いて少し慌てる)
あー……ちょっとだけ待っててもらっていいっすか?
(少し間を開ける)
お待たせしました。
今店長に許可貰ってきたんで、大丈夫っす。
ご注文、どうぞ。
(彼女:「でも…」)
いいんすよ。
今日はもうお客さんいないし、俺が片付け当番なんで。
で、ご注文は?
いつものヤツっすか?
(彼女:「覚えてるんですか!?」)
そりゃ、いつも同じ時間に同じ物を注文するお客さんは印象に残りやすいっすから、必然的に覚えますって。
(彼女:「うわぁ、恥ずかしい……けど、いつものを…」)
かしこまりました。
850円になります。
お支払いは電子決済っすか?
……現金…?
(彼女:「ダメでした?」)
いや、全然ダメじゃないっす。
いつも電子決済だったから、ちょっと意外だなって思っただけで…。
「現金持ち歩くんだ」って。
はい。
ちょうどお預かりしました。
すぐ作るんで、受け取り口で待っててください。
(少し間を開ける)
お待たせしました。
ん?
あぁ…「今日も1日お疲れ様」ってカップのメッセージ?
ほんとはこういうの規則で禁止なんす。
でも、今日も残業だったんじゃないっすか?
お姉さんがどんな仕事してる人か知らないっすけど、こんな時間まで仕事してるってことは残業してたってことっしょ?
がんばるのは当たり前だけど、たまには誰かに甘やかされたり、褒めてもらわないと、やってらんねーってなるし…。
まぁ……こう思うのは俺だけかもしんないけど…。
こんなありきたりな言葉しか言えないっすけど、いっぱいがんばったお姉さんに、俺からのささやかな
……ほんと、毎日遅くまでお疲れ様っす。
それより、飲まなくていいんすか?
ぬるくなっちゃいますよ?
(彼女:「甘いし、生クリーム多いような…?」)
あっ!気付きました?
疲れた時は甘い物欲しくなるじゃないっすか。
だから、ホイップ多め、シロップ多めで、いつもより甘めにしてあります。
追加料金は俺の
お姉さんの顔にモロ出てるから。
『めちゃくちゃ疲れた…。もう限界…』って。
(彼女:「そんなに出てる?」)
かなり分かりやすいくらいには顔に出てますよ。
毎日来てくれるのは嬉しいっすけど、日を追う
(彼女:「あんまり…かな…。ご飯の時間削って仕事してるから…」)
ダメっすよ。
ちゃんと
体を壊したら元も子もないっすよ 。
って、俺みたいなガキが偉そうなこと言っても説得力ないっすけど…。
お姉さん、まだ時間あります?
(彼女:「うん。全然平気」)
だったら……。
(フードを詰める)
はい、これ。
持って帰って
今日の売れ残りっすけど、全部お姉さんにあげます。
店長に見つかったら『こんなのお客さんに渡すな』って怒られるけど、今のお姉さんには必要なものだと思うから。
(内緒話で)店長には内緒でお願いします。
この後、また会社に戻るんすか?
(彼女:「うん。そうだよ」)
なら、俺送っていきますよ。
(彼女:「いや、いいよ。1人で大丈夫」)
ダメっすよ。
こんな遅い時間に女性が1人で歩いてるなんて、『どうぞ襲ってください』って言ってるようなもんだし。
それに、この辺で最近変質者出たらしいっすよ…。
(彼女:「ほんとに?」)
マジっす。
この
…だから、送らせてください。
俺、お姉さんが襲われて、ウチに来てくれないなんてイヤっすもん。
(彼女:「大袈裟だなぁ」)
(彼女:「じゃぁ、送ってもらおっかな?」)
…了解っす!!
片付けしたら上がれるんで、ほんの少しだけ……10分だけ待っててください。
適当に座っててもらって大丈夫なんで。
…じゃぁ、片付け行ってきます。
(彼女に背を向ける)
(突然彼女の方に振り向く)
絶対勝手に帰んないでくださいよ?
約束っすからね?
(バタバタと奥に片付けに行く)