(※ 年下男子と店内で待ち合わせしている)
お姉さん!
こっち、こっち!
お仕事、お疲れ様。
久しぶりだね。
元気してた?
そっか。
元気そうで、なにより。
俺?
俺は相変わらず大学とバイトの毎日。
大丈夫だよ。
あの時ほど今はシフト入れてないって。
ちゃんと休んでるし。
いいじゃん。
週に何日バイトしてても。
もう無茶してないんだから。
えぇ…。
言わなきゃダメ?
怒らないでよ?
……週6。
怒らないでって言ったのに…。
今は、週に1日は休むようにしてるもん。
休みなしでバイトしたりしてないし。
ほんとだって!
じゃないと、今日、こうやってお姉さんとご飯なんて食べれないでしょ?
でも、ほんとによかったの?
居酒屋で…。
もう少しお洒落なとこでもよかったんだよ?
ふぅーん。
こういうとこ、好きなんだ。
ちょっと意外かも。
俺の中のお姉さんのイメージって、高そうなバーとか行くと思ってたから。
じゃぁ、お姉さんが、最初に注文する物って、ビールと枝豆だったりする?
当たった!?
ふふ。
なんとなく、そうじゃないかなぁって。
お姉さんの好み、少し分かった気がする。
俺は残念ながら、お酒弱いんだよね。
飲めなくはないんだけど。
ちょっと飲んだだけで全身真っ赤っか。
だから、なるべく外では飲まないようにしてるんだ。
まだまだ話したいけど、そろそろ注文しちゃおっか。
喉渇いちゃった。
お姉さんはビールと枝豆でいい?
何か、ほかに欲しい物ある?
一緒に注文しちゃうけど…。
適当でいいって言われたら、ほんとに適当に注文しちゃうよ?
いいの?
ん。
分かった。
(店員を呼ぶ感じで)すみませーん!
(店員に対して)ビールとウーロン茶。
それから、枝豆、唐揚げ、シーザーサラダ。
以上で、お願いします。
(店員が去っていく)
お姉さんは、あれからどうだったの?
鍵の交換とかいろいろ大変だったんじゃない?
(相槌数回打つ)
へぇ…大変だったね…。
ちなみに聞きたいんだけど、鍵の交換ってどれくらいするの?
うわぁ…。
思った以上に高いんだ…。
俺は鍵なくさないようにしよっと。
ちょっと
おっ!
きた、きた!
とりあえず、乾杯しよ。
今日も1日お疲れ様でした。
かんぱーいっ!
(ウーロン茶を飲む)
ふふ。
いい飲みっぷり。
だけど、
そうだなぁ。
唐揚げ、食べる?
レモンは?
ん。
じゃぁ、はい、あーん。
…なんで食べてくれないの?
恥ずかしがることないじゃん。
個室なんだし、誰も見てないよ。
ね?
熱々のうちに食べて。
ほら、ほら。
お口、あーん。
おいしい?
選んだ唐揚げ大きかったかな?
お口いっぱいになっちゃったね。
…モグモグしてるの、かわいい。
ん?何?
モグモグしながら話しても分かんないって。
ちゃんと飲み込んでから話して。
待ってるから。
…ちゃんと飲み込んだ?
お
俺の前以外でしちゃダメだよ?
さっき言おうとしてたことって何?
……今日いきなり『会いたい』って言った理由、か…。
ざっくり言うと、俺がお姉さんに会いたくなったから。
俺とお姉さんが出会ったのって、ちょうど1ヵ月前の今日じゃん。
俺ね、今でも、あの日のことが忘れられないんだ。
お姉さんと一緒にいた、たった半日程度の時間。
それがすごく楽しかった。
家に着いても、警戒して、なかなか打ち解けてくれなかったこと。
お風呂から出て、寝るまでくだらない話で盛り上がったこと。
翌朝のお姉さんが作ってくれた味噌汁の味。
どれもこれも、キラキラした思い出。
だからかな。
お姉さんが帰ってから、すごく寂しくて…。
1人で寝るのも、1人でご飯を食べるのも、何もかも…。
それまで当たり前だったことが、当たり前じゃなくなった。
お姉さんを思うと、胸がキューってしたり、ドキドキしたり、寂しいって思ったり…。
この気持ちが何なのか、俺には全然分からなくて、友達に相談したんだ。
そしたら、『それは恋してるからだ』って言われた。
その時の俺、
今までなら、『そんなことない!』って言ってたんだけど…。
きっと、出会った瞬間からお姉さんに恋してたからなんだと思う。
それで、恋って分かったら、あとは止まれなくなってた。
会いたくなって、気付いたら連絡してた。
お姉さんの予定とか考えずに…。
ごめんね。
俺、お姉さんのことが好き。
年下で、ワガママで、包容力も経済力もなくて、まだ学生な俺だけど…。
それでも、よかったら、俺と付き合ってください。
……『嘘
俺、お姉さんに嘘
着替えの服…?
確かに、あの服はレディースサイズ。
でも、元カノの物ではないよ。
今まで付き合ったことない、って言ったでしょ。
あれ、ほんとだから。
あの服は、俺の姉貴の物。
ちょうどお姉さんとスタイルが似てるから、着られるかなぁって。
俺のTシャツ貸してもよかったんだけど、俺の理性が耐えられそうになかったから…。
ちょっと待って。
俺に姉貴がいる証拠、見せてあげる。
(スマホをタップする音)
ほら、これが姉貴。
で、この写真で着てる服がお姉さんに貸した服。
最近はなくなったけど、少し前までは、よく家に押しかけてきてたんだよ。
その時に『いちいち着替え持ってきたくない』って置いてったのが、あの服。
処分していいって言われてたんだけど、捨てられなくてね…。
今度実家に帰る時に持って帰ろうと思ってたんだ。
…これでも、まだ嘘だと思う…?
信じてくれて、ありがと…。
それで…返事は……。
『遅い』かぁ…。
うん…そうだよね…。
あれから1ヵ月
お姉さん、こんなに素敵な人だもん。
自分の気持ちにもっと早く気付けばよかったなぁ…。
『そうじゃない』って…?
はぁ!?
えっ!?
嘘っ!?
ほんとに!?
…俺と付き合ってくれるの?
ほんとの、ほんとに?
いいの?
やったー!
ん?
お願い事?
何?
俺にできることなら、何でもするよ。
…名前呼んでほしいの?
いきなりハードル高すぎない?
名前呼びって。
だって、今まで”お姉さん”だったのから、急に名前呼ぶのって恥ずかしい…。
今すぐ呼ぶの!?
うぅぅ……お姉さん、急に
嫌いになるわけないじゃん!
大好きだよ!
名前くらい言えるしっ!
……じゃぁ、いくよ?
…。
……っ!
やっぱ、無理っ!
今はこれで許して?
(触れるだけのリップ音)
俺のファーストキス。
お姉さんにあげる。
次会う時には、ちゃんと名前で呼ぶから…。
それまで、ちょっと待ってて。
恋愛初心者な俺だけど、これからよろしくね。
お姉さん。