さて、私はこれから出かけてくるから。
この鍵束をキミに預けておくよ。
この鍵束を使って、どの部屋に入っても構わない。
でも、この小さい鍵の部屋にだけは入ってはいけないよ。
いつも言っているけれど、絶対に入ってはいけない。
入ったら、どうなるか分かるよね?
うん、いい子だ。
それじゃ、行ってくるよ。
【馬車が走り去る音】
(間を開ける)
【馬車が近づく音】
ただいま。
ちゃんといい子でお留守番はできたかな?
そうか。えらいね。
じゃぁ、キミに預けておいた鍵束を返してくれるかな?
ん、確かに。
…あれ、おかしいな。
小さい鍵がない。
キミに『入っちゃいけないよ』って言った、あの部屋の鍵がないんだ。
キミ、持ってる?
ん~、困ったな…。
探すのを手伝ってくれるかな?
ごめんね。
(家の中を探す)
あとは、キミの部屋だけか…。
【部屋のドアが開く音】
【物を探す音】
ん~、ないなぁ…。
あれがないと困るんだけど…。
あっ!見つけた。
こんな所に落ちてるなんてね。
どうりで見つからないわけだ。
…あれ?
汚れてる?
君に渡した時はこんな血みたいなのは付いていなかったはずだけど…。
あの部屋に入ったのかい?
『入ってない』ね…。
じゃぁ、この汚れは何?
拭いても拭いても取れないんだけど。
『知らない』じゃないよ。
この鍵束の鍵は一つ一つ全部私が毎夜磨いてるんだから。
キミに預けるまでは綺麗だったのをキミも見てるはずだ。
『この小さい鍵の部屋にだけは入ってはいけないよ』って見せながら忠告したんだからね。
正直に言ってごらん。
今なら怒らないから。
入ったんだろう?あの部屋に。
やっぱり…。
じゃぁ、部屋の中も見たんだね?
そうか…。
(有無を言わさない感じで)
おいで。
抵抗しても無駄だよ。
キミの非力な抵抗なんて痛くもかゆくもないからね。
ん?何?
確かにさっき『怒らない』って言ったけど、『許す』とは言ってないよ。
実際、今、私は怒っていない。
だけど、キミを許してあげようとは一ミリも思っていない。
だって、キミは私との約束を破ったんだから。
『あの部屋に入ってはいけない』と言ったのに、キミは好奇心に負けて入ったんだから。
ちなみに、あれは血じゃないよ。
特殊な塗料なんだ。
落とすのも専用のものを使わないと落とせないんだ。
(抑え込んだ笑い)クックックッ
きっとキミはあの部屋に入ったのがバレないようにって、必死にあの鍵の汚れを取ろうと擦ったのだろうね。
その様子が目に浮かぶよ。
【鍵を開ける音】
【古びたドアが開く音】
さぁ、入るんだ。
時間はたっぷりある。
この家には私とキミしかいないから、助けが来ることもない。
時間をかけてお仕置きしてあげる。
私との約束が守れないとどうなるか、きちんとキミの体に叩き込んであげる。
【古びたドアが閉まる音】