公園で拾った子犬は家事スキル持ちだった

(玄関扉の開閉音)

おかえりなさい。
今日も一日、お疲れ様でした。

ん?
どうしたんすか?

あぁ…。
部屋が綺麗になって、おいしそうな匂いがするから驚いたんすね。

どっちも俺がやったんすよ。
泊めてくれたお礼に俺にできることやりたくて…。

あっ!
安心してください。
洗濯には手を出してないんで…。

さすがにお姉さんもイヤでしょ?
知らないヤツにいろいろと見られたり、触られたりするのは…。

(ボソッと)溜まってる洗濯物はちょっと気になったけど…。

うぅん。
何でもないっす。
それよりも、さっきからソワソワして、おいしそうな匂いの正体が気になっちゃってます?

匂いだけで、何か当ててみてください。

ブッブー。
正解はオムライスでした。

お姉さん、オムライス好きっすか?

よかったぁ…。
「嫌いって言われたら俺一人で二人分食べなきゃいけないなぁ」って、不安だったんすよ…。

とはいえ、冷蔵庫の中を勝手に(あさ)ってごめんなさいっ!
どんな罰も受けますっ!
だから、『出ていけ!』って言わないで…。

(おずおずと)……オムライスの中身?
定番のケチャップライスっす…。

ふふ。
子供みたいに喜んじゃって……かわいい。

えぇー!?
味見するんすか!?
手洗いうがいもしてないのに?

…ひと口だけっすよ?

あーん。

おいしいっすか?

…お姉さんのお口に合って何よりっす。

へぇー。
ケチャップライスのオムライスが好きなんすね。
覚えとこ。

ほかには?
お姉さんの好きなもの教えてください。
今みたいなこだわりも、ぜぇーんぶ。
冷蔵庫の中を勝手に(あさ)ったお詫びに作ってあげます。

(相槌数回打つ)

ん。
了解っす。

……よしっ!決めたっ!
明日の晩ご飯。

(意地悪に)教えませぇーん。
教えちゃったら、せっかくのワクワクがなくなっちゃうでしょ?
明日帰ってきた時の、お・た・の・し・み。

……でも、明日はさすがに買い物行かないと作れないなぁ…。

だって、お姉さんの冷蔵庫の中身ひどすぎっすよっ!
(ろく)な食材がなくて、水とお酒とエナドリしか入ってないような冷蔵庫見たことないっす。
お仕事忙しいのは分かるけど、もう少し人間らしい生活しないと……あっ、そうだ!
いいこと、思いついちゃった。

ねぇ、お姉さん。
俺とひとつ、取引しませんか?

ここに泊めてもらってる間、お姉さんに人間らしい生活を提供してあげるっての、どうっすか?
結構魅力的でしょ?

…想像してみてください。
実家暮らしじゃないのに、帰ってきたらご飯は出来上がってて、お風呂もすぐ入れるような生活…。
最高すぎません?

ふふ。
交渉成立っすね。

じゃぁ、早速……ご飯とお風呂、どっちにします?

……ちなみに、俺でもいいっすよ?

あー、嘘。嘘。
ごめんなさい。

どっちでもいいっすよ。
準備できてるんで。
お姉さんの好きな方を選んでください。

お風呂っすね。
時間は気にせず、ゆっくり入ってきてください。
で、お風呂から出たら、ひと言ください。
ご飯温め直して完成させないと…。

そ。
卵で包まないとオムライスじゃないでしょ?

ちなみに、お姉さんはオムライスの卵はトロトロなのと、しっかり焼いてるの、どっちが好きっすか?

『真ん中をナイフで切ってパカッてするトロトロのヤツ』!?

……めっちゃ難易度高いヤツ言ってくれるじゃないっすか。
あれ、結構練習しないとできないヤツなんすよ?
動画とかでは簡単に作ってるように見えるけど…。

はぁ!?
できなくないしっ!
すっごいの作って、俺に舐めた口きいたこと後悔させてあげます。

…泣いて『許して』って言っても、許してあげませんから。

ほら。
お風呂、入ってきてください。

出てきたら、一緒にオムライス食べましょうね。