(店奥に向かって)お先に失礼しまーす。
すいません。
遅くなりました。
行きましょうか。
(外に出る2人)
会社、こっちっすよね?
(彼女:「なんで知ってるの?」)
お姉さん、いつもこっちから来るじゃないっすか。
だから、会社こっちにあるのかなぁって。
歩いて店までどれくらいかかるんすか?
へぇー。
それだと、ちょっとした気分転換にはちょうどいいっすね。
(彼女:「そうなの」)
あの……ひとつ、気になってたこと聞いてもいいっすか?
いつも同じの注文するじゃないっすか。
(彼女:「しないよ」)
ふぅーん。
たまには違うの飲んでみたいなぁとかは思わないんすか?
新作が発売された時とか。
(彼女:「気にはなるけど、浮気はしないかな」)
へぇー。
浮気しないタイプなんだ。
(彼女:「つまんないって思ったでしょ?」)
つまんないなんて全然思ってないっすよ。
俺には無理なんで…。
(彼女:「なんで?」)
”新作”とか”新商品”って言葉に弱くて、ついつい手出しちゃうんすよね…。
ってか、さっきから俺ばっか質問しちゃってて、すいません。
口下手なのに、お姉さん相手だと
お姉さんから俺に聞きたいことあったら、どうぞ。
NGなしで、何でも答えちゃいますよ。
(彼女:「いきなり言われてもなぁ…。特にないかも…」)
えぇー。
『特にない』とか寂しいこと言わないでくださいよ。
がんばってひねり出してください。
ほんとになければ、ありきたりなことや定番なことでもいいんで…何かないっすか?
(彼女:「じゃぁ……彼女いないの?」)
彼女?
いないっすよ。
(彼女:「そうなの!?」)
そこ、驚くとこっすか?
(彼女:「意外だったから…」)
そんなに意外かな?
じゃぁ、もっと意外なこと言いますね。
ここ数年、彼女いないっすよ。
(彼女:「えぇー!?」)
ふふ。
お姉さんのリアクション、素直すぎておもしろい。
(彼女:「そんなに!?恥ずかしいなぁ…」)
いいじゃないっすか。
恥ずかしがらなくても。
お姉さんのそういうとこ、かわいいと思いますよ。
(彼女:「誰にでも言ってるんでしょ?大人をからかうんじゃありません」)
こんなこと、誰にでも言ったりしないし、お姉さんのことからかってもないっす。
さっきも言ったっしょ?
口下手だって。
本音っすよ。
(彼女:「…ありがと」)
俺より、お姉さんはどうなんすか?
彼氏さん。
いるんすか?
(彼女:「いないよ」)
えっ!?
いないんすか!?
気になる人とかは?
(彼女:「そういう人もいないかな」)
そっか…。
(彼女:「君は気になる人、いないの?」)
俺っすか?
俺は……いますよ。
気になる人というより好きな人…かな。
(彼女:「へぇー。どんな人?」)
えっと……年上の人で、すごくがんばり屋さんっす。
がんばりすぎるから、見てるこっちはハラハラしますけどね。
倒れるくらいまでがんばったりしないかなって。
あとは、思ったことが顔に出やすいみたいで、表情がコロコロ変わっていくとこがマジでかわいいっす。
一生見てても
(彼女:「そっかー。うまくいくといいね」)
(重めの溜息)はぁ…。
ここまで言っても分かんないか…。
(彼女:「……???」)
俺の好きな人は、お姉さんっすよ。
じゃなきゃ、注文覚えたりしないし、不審者がいるからって会社まで送ったりしないっす。
普通にめんどくさいし…。
(彼女:「めんどくさいのに、付き合ってくれるの?」)
何とも思ってない人相手だとめんどくさいだけで、好きな人相手なら話は別。
好きな人の好きな物は覚えときたいし、少しでも長く一緒にいたいっすからね。
(彼女:「尽くすタイプなの?」)
そうっすね……尽くすタイプかもしれないっす。
(耳元で)お姉さん限定っすけど。
(彼女:「ち、近い…。離れて」)
近いのは仕方ないっす。
離れてて、もしもの時お姉さんを守れなかったらイヤっすから。
…あれ?
もしかして、俺のこと意識しちゃいました?
耳まで真っ赤。
すっげーかわいい。
でも、あんまりかわいい顔見せないでください。
送り狼になりそう…。
(彼女:彼に対して警戒して身構える)
なーんてね。
冗談っすよ。
外では、何もしません。
あっ…会社、ここっすか?
じゃぁ、俺はここで。
また明日のご来店、お待ちしております。
残業、がんばってくださいね。