【キーボードを叩く音】
何?
見て分からない?
今仕事してるんだけど。
『
(溜息)はぁ…。
今言ったよね?
『仕事してる』って。
今日中に仕上げなきゃいけないんだよ。
忙しいの。
だから、君に構ってる暇はないの。
もう!
はっきり言わないと分からない?
邪魔!
すっっっごい邪魔!
あっち行ってて。
ったく…。
【キーボードを叩く音】
(間を開ける)
【玄関ドアの開閉音】
(間を開ける)
(溜息)ふぅ…。
やっと終わったぁ~。
仕事終わったよ。
って、あれ?
いない?
寝てるのかな?
【ドアをノックする音】
【ベッドルームのドアを開ける音】
(小声で)
お~い…寝てる?
…えっ、いない?
ちょっ……えっ…!?
(家中を探す)
……どこにもいない…。
靴!!
(急いで玄関に向かう)
…靴がない。
外か…。
いつ出ていったんだよ。
全然気づかなかった…。
ってか、こんな時間に外に出るとか、どんだけ不用心なんだよ!
【玄関ドアの開閉音】
(間を開ける)
【電話の呼び出し音】
くそっ…。
電話にさえ出ない…。
どこにいるんだよ…。
(息切れ)はぁ…はぁ…
……いたっ!
(彼女の元に駆けつける)
やっと見つけた…。
待って!
逃げないで。
…体、めちゃくちゃ冷えてるじゃん。
手だって、氷みたいじゃん…。
帰ろう?
ヤダじゃない。
君が帰る場所は家しかないでしょ?
『友達のところに行く』?
もう終電ないのに?
『タクシーに乗って行く』って…。
お金、持ってるの?
財布、いつもの場所に置いたままだったけど。
『ここにいる』って…。
そんな子供みたいな駄々捏ねないの。
ほら、帰るよ?
どうしたら帰ってきてくれるの?
黙ったままじゃ分かんないんだけど…。
もしかして、俺があの時すぐに構ってあげなかったから拗ねてる?
『拗ねてない』って…。
ふふ。知ってた?
拗ねてる人はだいたい『拗ねてない』って言うんだよ。
ほら、俺の上着、ちゃんと着て?
女の子は体冷やしちゃダメなんだから。
夜にこんな薄着で外に出たら、体が冷えることくらい分かるでしょ?
どうして、こんな薄着で外に出たの?
『そんなこと考える余裕がなかった』、ね…。
そっか…。
とりあえず、ここにいても2人して風邪引くから、家に帰ろう?
ね?
(間を開ける)
(家に到着)
【玄関ドアの開閉音】
ソファーに座ってて。
紅茶 淹れるから。
(少し間を開ける)
お待たせ。
熱いから舌、気をつけてね。
あと、毛布。
まだ体冷えてるからちゃんと包まってて。
……ごめんなさい。
君が家出したのって、事の発端は俺じゃん?
仕事のことになると周りが見えなくなって、仕事のことしか考えられなくなって、君を大事にすることを疎かにした。
君を拒絶した。
いくら仕事が忙しいとはいえ、やっちゃいけないことだったと思う。
だから、ごめんなさい。
君、帰る直前に『そんなこと考える余裕がなかった』って言ったでしょ。
そう思わせるほど、君が怒るのも無理はないと思うよ。
ってか、俺が逆の立場だったら、同じようにしてたと思うし…。
手、触れてもいい?
…まだ冷たいね。
君が家の中にいないって気付いた時、全身の血が引くのを感じた。
いなくなったことに全然気づかなかったから。
いつ出ていったのかも分からない。
どこに行ったのかも皆目見当もつかない。
とにかく探さなきゃって思った。
君が家からいなくなるなんて想像すらしてなかったから、すごく怖かった。
やっとの思いで見つけた時はすごく安心したんだよ。
だけど、君は怒ってた。
君を放置して、仕事してたんだから当然だよね。
あんなに怒ってる君を見るの、初めてで、どうしていいのか分からなかった。
頭の中真っ白になったんだよ?
分かんなかった?
あんまり慌ててるところ、君に見られたくなかったからね。
顔に出ないようにするの、必死だった。
何よりも君を大事にしなきゃいけないのに…。
今日中に仕上げないといけない急ぎの仕事が嫌で、イライラして、それを君にぶつけて…。
俺、彼氏失格だね…。
『私も、ごめんね』って、なんで君が謝るの?
君は何も悪いことしてないじゃん。
『俺の仕事の邪魔したから』?
邪魔じゃない。
あれは俺の八つ当たり。
君は何も悪くないから。
だから、謝らないで?
ね?
俺、今度から仕事を家に持ち帰らないようにする。
仕事が終わらなかったら、残業して帰ってくることにする。
なるべく遅くならないようにするから。
家では君との時間を大事にしたい。
今回のことで、思い知らされたよ。
(甘えた感じで)
ねぇ、ギューしていい?
ダメなの…?
どうしたら、ギューさせてくれる?
何をしたら許してくれる?
いっぱいチューしたらいいの?
分かった。
じゃぁ、カップ置いて、こっち向いて。
まずは髪に。
(リップ音)
次は、おでこ。
(リップ音)
まぶた。
(リップ音) ※左右、両方にしてください。
耳。
(リップ音) ※左右、両方にしてください。
ほっぺ。
(リップ音) ※左右、両方にしてください。
鼻。
(リップ音)
最後は、唇。
(リップ音) ※長めにお願いします
…許してくれる?
…よかったぁ。
『許してくれなかったら、どうしよう』って思っちゃった。
じゃぁ、ギューするね。
(彼女を抱きしめる)ギュー
紅茶飲んだけど、まだ冷えてるね。
俺の熱、いっぱい奪っていいよ。
だって、君、すぐ風邪引くじゃん。
このままだと多分明日 風邪引くよ?
だから少しでも俺の体温奪って風邪引かないでいてほしいの。
俺は滅多に風邪引かないから大丈夫。
それに、君を探して走り回ってたから、暑いんだよ。
ちょっと汗かいたから、汗臭いかも…。
ごめんね?
あのさ……君を放置したお詫びがしたいんだけど、何かしてほしいことない?
俺にできることなら、何でもしてあげる。
『もっと、いっぱいイチャイチャしたい』?
いいよ。
君が『もういい!』って言っても離してあげないんだからね。
(耳元で)
本当にごめんね。
大好きだよ。