次の人どうぞ~
【診察室のドアが開く音】
あとは僕がするから、君は下がって。
(看護師を下がらせる)
一人で来れたんだね。
辛いのによくがんばったね。
ちゃんとタクシー使った?
僕の言うこと守れて、えらい、えらい。
ベッドに横になって。
椅子に座るよりも、その方が楽でしょ?
(彼女が診察ベッドに横になる)
じゃぁ、体温計入れて。
熱が測れるまで問診させてね。
怠い感じする?
…まだするんだね。
関節痛は?
…少し痛む程度でだいぶ楽になったんだ。
咳も今朝してたけど、喉痛かったりする?
…痛いんだね。
口、開けられる?
……喉、真っ赤に腫れてる。
これ、相当痛いでしょ。
【体温が測れた音】
熱、測れたね。
体温計、貸して?
熱は……38℃超えてるか。
でも、昨日よりは下がったね。
この間、『買い物に行くんだ』って人混みに行ったでしょ?
もしかしたら、コロナじゃないかなって思ってさ…。
『違う!』って君は否定するけど、今は感染してるけど無症状の人だっているんだから、どこで貰ってくるか分かんないんだよ?
僕の制止を振り切って買い物に行った罰だよ…。
とりあえず、コロナの検査の前にインフルエンザの検査してみよう。
君の症状、インフルエンザの症状に似てるから、一応検査してみよう。
まだインフルエンザに罹る人いるんだから。
暖かくなったからって油断しちゃダメなんだよ。
ちょっと辛い検査だけど、我慢してね。
(少し間を開ける)
…はい、終わり。
ごめんね。
結果出るまで3分かかるから少し寝てていいよ。
結果が出たら起こしてあげるから。
(少し間を開ける)
起きて。
結果、出たよ。
君の病名はインフルエンザです。
…よかったぁ。
『もしもインフルエンザの結果が陰性だったら…』、『もしかしたら本当にコロナなのかも…』、『入院するなら…』って、最悪のことばかり考えてたんだよ。
この結果が出るまで気が気じゃなかったんだから。
『ふふふ』って…。
笑い事じゃありません!
ったく…。
今回はインフルエンザだったからよかったものの、もし、本当にコロナだったらどうするの?
病室でずっと一人なんだよ?
僕らは、お見舞いもさせてもらえないんだよ。
治るまでずっと一人ぼっちなんだよ。
耐えられる?
無理だよね。
僕だって無理だよ。
いつも君が隣にいるのが当たり前になってるのに、急に一人になるなんて考えられない。
というか、考えたくない。
……あの家に一人なんて、寂しいよ。
だから、本当にホッとしてる。
『コロナじゃなくてよかった』って。
もう僕にこんな心配かけさせないで。
こんなの、心臓がいくつあっても足りないよ。
お願いだから、次からは僕の言うこと、ちゃんと聞いて?
いい?
ん、いい子だね。
そういえば、ご飯、食べられるようになった?
調子悪いって言いだしてあんまりご飯食べてる感じしてなかったけど…。
…あんまり食べられてないんだ。
それなら、今日は点滴して帰ろうね。
本当はちゃんとご飯食べてくれる方がいいんだけど、食べられそうにないなら、無理に食べなくてもいいよ。
食べられそうになったら、僕特製のお粥、作ってあげる。
君に料理してあげるの、初めてだよね。
いつも仕事が忙しいって言って、君に任せっきりだったから…。
ごめんね。
だからというわけではないんだけど、明日1日休みにしてもらったんだ。
というか、君が心配すぎて、今朝のうちに休みを無理矢理取ったの。
それくらい君のことが心配で、大好きなんだって、理解してください?
いいですか?
明日はずっと一緒にいてあげる。
1日中、ずっと君の側にいるから。
僕にしてほしいこと、何でも言ってね?
遠慮はダメだよ?
これは『僕の言う事を聞かなくて、僕にめちゃくちゃ心配をかけた罰』なんだからね。
分かった?
…分かったら、返事。
ん、いい子。
じゃぁ、点滴してもらったら、一緒に帰ろうか。
僕の今日の仕事は君を診たら終わりなんだよ。
いっぱい君を心配したご褒美として、今からずっと君を独り占めさせてもらうからね。
いっぱい君の世話焼いてあげるから、覚悟してて。