あれ?
もうお風呂から出たの?
もっとゆっくりしてもよかったのに…。
おっ!
着替えもピッタリだね。
似合ってる。
(小声で)よかった…。
処分しなくて…。
ん?
何も言ってない。
俺もパパッとお風呂入ってこよっかな。
ドライヤーとか、そこに出しといたから。
好きに使ってくれていいよ。
ちょっと行ってくるね。
(少し間を開ける)
ふぅ…。
さっぱりしたー!
さてと…夜遅いし、そろそろ寝よっか。
お姉さんはベッド使って。
俺は床で寝るから。
いいって。
俺のことは気にしないで。
床で寝るとは言っても、予備の布団で寝るし。
お客さんであるお姉さんを床で寝かせるわけにはいかないでしょ。
はぁ!?
『一緒に寝れば』って、このベッドで?
このベッド、シングルだよ?
大人2人で寝るには小さすぎるって。
ほんとに俺は大丈夫だから。
お姉さんがベッドで寝て。
う゛っ…。
確かに連日のバイトで疲れてるって言ったけど、それとこれとは話が別なの。
一緒に寝たら、たぶん俺の理性弾け飛んじゃうって。
何もしないって約束、守れなくなっちゃう。
…お姉さん。
俺怒るよ?
俺のこと、ちゃんと認めてくれたことは素直に嬉しいよ。
だからって、恩を返すために、自分の体を売るようなことはしないで。
俺だからいいようなものの、他の男だったらもうエッチぃことされてるよ?
分かってるの?
俺はしないって言ったら、絶対しない。
せっかく信じてもらったのに、裏切るようなことはしたくないからね。
どうしても、恩を返したいの?
んー……じゃぁさ、お姉さん、料理作れる?
それなら、明日、お姉さんの料理食べさせてよ。
今夜泊めた恩はお姉さんの手作り料理と引き換えってことで。
どう?
決まりっ!
そうだなぁ…。
食べたい物かぁ…。
……味噌汁。
具がたくさん入った味噌汁が食べたい。
嫌いな食べ物?
ないよ。
何でも好き。
えへへ。
もっと褒めて。
まさか、この歳になって、好き嫌いがないってだけで褒められるなんて思ってもみなかった。
だから、すっごく嬉しい。
あぁ、明日が楽しみだなぁ。
なんだかワクワクしてきた。
こんな気分になるの久しぶりかも。
だって、お姉さんの作った料理が食べられるんだよ。
楽しみにしないわけないじゃん。
たかが味噌汁だけど、されど味噌汁なの。
簡単だからこそ難しいって思わない?
味が誤魔化せないから。
ん?
もう1つ聞きたいこと?
いいよ。
俺に答えられることなら。
ちょっ……やめてよっ!
家につれてきたのは、お姉さんが初めて。
なんで声掛けたのかは、今でも分かんない。
ちょうどバイト終わって帰ってる時に、ふと視界にお姉さんがいて…。
気付いた時には声掛けてた。
……女の人と話すの、苦手なはずなのに…。
おかしいなぁ…。
慣れてると思った!?
バカ言わないで。
ナンパとか初めてしたし…。
今だって、すっごくドキドキしてるんだから。
嘘じゃないって。
ちょっと手貸して。
…ほらね。
めちゃくちゃドキドキしてるでしょ。
今まで周りにいたのは男ばっかだったから、女の人と、どう接していいのか分かんないんだよ。
彼女?
一度もいないよ。
彼女いない歴=年齢ってやつ。
友達にはすっごいバカにされるけどね。
”好き”って感情がイマイチ分かんないんだ。
友情の”好き”は分かるけど、恋愛の”好き”が、ね…。
そんなこと考えないで、適当に彼女作れって友達には言われるけど、それって不誠実すぎない?
相手の気持ちをちゃんと受け止めてない感じでさ…。
そういうことしたくなくて…。
彼女いない歴更新中って感じ。
そういうお姉さんは彼氏さん、いないの?
…フラれちゃったんだ。
ごめん。
傷口
でもさ、その元彼さんも見る目ないよね。
こんなに素敵な人をフっちゃうなんてさ。
ほんとに素敵だと思うよ。
メイクしてる時は綺麗だけど、スッピンはかわいいし。
優しいし、いい匂いするし、料理できるし。
お姉さんみたいな人が彼女だったら、俺、絶対自慢するっ!
嘘でも、お世辞でもないよ!
ほんとに!
マジで!
『見ろ!俺の彼女、かわいいだろう!』ってね。
ふふ。
でっかいあくび。
もうこんな時間か…。
そろそろ、ほんとに寝ないとね。
話すのはまた明日でもできるし。
俺のことは気にしないで。
お布団、入って。
電気消すよ。
(消灯する)
…おやすみ。
いい夢見てね。