彼女の未来を守ろうとした年上紳士彼氏

お疲れ様。
走ってきたの?
額に汗が滲んでる。

『ゆっくりでいいよ』って連絡したのに…。
お仕事なんだから仕方ないでしょ。
あらかじめ連絡くれたんだし、これくらいのことで怒ったりしないよ。

待ってた時間?
そんなに待ってないよ。

『どれくらい?』って、言わなきゃダメ?
……2時間。
そんなに驚くことかな?

君はすごく気にしてるみたいだけど、意外と有意義な時間だったよ。
君を待っている間に最近買った本をゆっくり読めたからね。
だから、気にしなくていいよ。

さぁ、君も何か飲んだらいいよ。
何にする?

私が飲んでる、これ?
『アレキサンダー』って言うカクテル。
ちょっと疲れてたから甘いお酒にしたんだよ。
チョコの香りがするでしょ。
おいしそうなんだけど、アルコール度数高いからね。

だから、これはおすすめしないよ。
絶対にダメ。
君、アルコールに弱いんだから、こんなに度数の高い物飲んだらすぐ酔っちゃうよ。
いつも通り、ノンアルコールカクテルね。
『シンデレラ』とかいいんじゃない?

こら!
こっそり飲もうとしないの!
ちょっとだけでもダメ。
舐めるだけもダメだよ。

そんなに大人の味を知りたいの?
それならまた次の機会にしよう。
今日はダメ。
君、まだ何も食べてないでしょ。
空腹にアルコールを入れると余計に酔いが回るからね。

ぁっ、ごめん。
会社から電話だ。
少し席を外すけど、これ、飲んじゃダメだからね。
絶対ダメだからね。
(席を外す)

(少し間を開ける)

(席に戻ってくる)
ごめんね、待たせちゃって…って、私との約束、守れなかったの?
どうして私がさっきまで飲んでたグラスが空になってるのかな?

『知らない』じゃないでしょ。
君が飲んだ以外考えられないでしょ。

ったく…。
真っ赤な顔にして、一人で座ってもいられないほどなんて。
席を離れてそんなに時間経ってないのに、こんなに酔いが回っちゃって…。
こうなるって分かってたから、飲んじゃダメって言ったのに。

危ないから今日は送っていくよ。
今タクシー呼んでくるから。

急に袖引っ張らないの!
危ないでしょ!

(無理矢理キスされる)
こらっ……(リップ音)チュ
いい加減に……(長めのリップ音)チュ

こんな人の目があるような場所でキスするなんて、どうしちゃったの?
照明が暗いとはいえ、誰が見てるか分からないのに。

今日はどうしたの?
いつもの君らしくないよ?

君のことが好きじゃなくなったかもって不安なの?
それはないから、安心して。
好きでもない子を2時間も待つほど、お人よしじゃないから。

『どうして手を繋ぐ以上のことをしないのか』か…。
ん~、これは話したくなかったんだけどな…。
いかに私が意気地なしかという話になるから、すごくかっこ悪くてね…。
それでも、聞きたい?

あのね、君と私は結構歳の差がある。
だから、私は自分の中で越えてはならない壁を作ったんだ。
君には手を繋ぐ以上のことは絶対にしないっていう壁を。

君はまだ若い。
これから光り輝く未来が待ってる。
その未来を私と付き合っていくことで潰してしまうのではないかと考えてしまったんだ。
それが怖かった。

私より若い男性はいくらでもいる。
君が私ではない男性のことを好きになって、その人と付き合いたいと言い出した時に、きちんと別れてあげられるために壁を作ったんだ。

それが結果的に君を不安にさせてしまって、申し訳ないと思う。
でも、手を繋ぐ以上のことをしたら、私は君を手放すことはできない。
君の無限の可能性を守るためには仕方ないんだ。

もし、受け入れてくれないなら、このまま別れよう。
こんな歳の離れた奴と付き合っていたのは夢だったと思ってくれて構わないから。

(軽いリップ音)チュ

あのね、君。
今、私が言ったこと、理解できた?
手を繋ぐ以上のことをしたら、君を手放してあげられないって言ったんだけど。

本当にいいの?
好きな人ができたって言われても、もう手放してあげないよ?

…ありがとう。
私よりもずっと君の方がかっこいいね。
本当に私はかっこ悪い…。

今日は帰さない。
これからいっぱい愛してあげるからね。