ごちそうさまでした。
ふぅ…おなかいっぱい。
あれ?
今日はアイス食べないの?
食べる気分じゃないんだ。
珍しいね。
俺は食べようかな。アイス。
何?食べたいの?
半分こ、する?
そんなに必死になって首を振らなくても…。
っていうか、何か怪しいなぁ…。
何だろう…。
今日の君の行動に違和感があるんだよね。
俺に隠し事してない?
……隠し事してるね。
目を全く合わせようとしないのは『隠し事してます』って言ってるようなものだよ。
で、何を隠してるの?
何もないって…。
そんなことはないでしょ。
ほら、話して?
…黙っちゃうんだ。
それなら、今日の君の行動を整理してみようか。
いつもお風呂上がりに冷たい水を飲むのに今日は常温の水だったし、食後のデザートにアイスを食べるのに今日は食べなかった。
これらから察するに……歯が痛いとか?
君って、隠し事できないよね。
そんなにあからさまに肩をビクリとさせたら『その通りです』って言ってるようなものだよ?
ったく…。
はい、ここに来て。
俺の膝の上に仰向けで頭乗せて。
どうしてって、君の歯を診るために決まってるじゃん。
ほら、早くおいで。
は・や・く!
よくできました。
じゃぁ、口開けて。
ヤダって、何で?
開けてくれなきゃ診れないんだけど?
恥ずかしいの?
どうして?
裸を見られてるようで恥ずかしいの?
口の中を診てるだけで、邪な感情はないよ?
俺はただ純粋に歯の状態を診てるだけ。
俺は君にとってよく知ってる人間でしょ?
知らない人間に診られてるわけじゃないから、そこまで恥ずかしがることないよ。
ね?診せて?
いい子だね。
どの歯が痛いの?
この歯?
ちゃんと診察してないから断言はできないけど、虫歯だと思う。
いつから痛かったの?
一週間も前から!?
そう言われたら、先週末のデートの時も甘い物あんまり食べてなかったような…。
(溜息)はぁ…。
彼氏が歯科医なんだから、どうして相談してくれなかったのかな?
君にとって、俺ってそんなに頼りない存在なの?
そんなことないって言ってくれるけど、俺ショックだよ。
だって、そうでしょ?
口腔内に関しては俺、専門家だよ?
歯が痛いなら痛いって早く言ってくれてもいいじゃない。
君の都合のいい日に予約入れておけば、痛くなる前に俺がちゃんと治療したのに…。
(寂しそうに)
でも、君はそれを拒んだってことでしょ?
俺を信じてくれなかったから…。
ごめん、俺、先に寝るね。
おやすみ。
(寝室にて)
あのさ、俺、寝ようとしてるんだけど…。
君が上に覆いかぶさってるから、重いんだけど。
何で君が泣くの?
泣きたいのは俺の方なんだけど。
『ごめん』って何に謝ってるの?
別に俺は怒ってるわけじゃないよ。
話してくれなかったのが悲しいだけ。
…歯科医の彼女なのに虫歯ができたってことが恥ずかしかったの?
それは仕方ないじゃない。
君も俺も人間なんだから。
病気をしない人間なんていないでしょ?
それと同じだよ。
歯科医の彼女だから虫歯ができたらいけないなんてことはないんだよ。
だから、もう今回みたいなことになる前に俺に相談して?
もう君に痛い思いをしてほしくないし、させたくないんだ。
君が誰かに会うのが恥ずかしいなら、休診時間に来ればいいよ。
クリニックの近くで待ち合わせして、裏口から入って、誰にも会わないようにして診てあげる。
それなら君も少しは気持ちが楽になるんじゃない?
やっと泣き止んでくれた。
あ~ぁ、もう…。
顔ぐちゃぐちゃ…。
ほら、ティッシュ。
(彼女を抱きしめて)
俺の彼女は恥ずかしがり屋で考えすぎちゃう、困った人だね。
危なっかしくて、目が離せないよ。
少し目を離した結果こんなことになったから、今後はちゃんと俺が君を見張っておくことにする。
君の僅かな変化も気づけるようにね。
泣いたから疲れちゃったね。
目がトロンとしてる。
おいで。
今日は一緒に寝よう?
特別に腕枕してあげる。
もっとくっついて。
俺の足に君の足を絡めて。
俺の足、温かいでしょ?
君、年中冷え性で足が冷たいと眠れないから、俺の熱、分けてあげる。
そういえば、君、明日休みだって言ってたよね?
それなら、12時に待ち合わせしよう。
いきなりだけど、明日から虫歯の治療始めようね。
なるべく痛くしないようにするから。
一緒に完治させようね。