天蘭-soran-
voice:天蘭-soran-

やたらグイグイくる隣の席の男子

※序盤に自分の名前を言う箇所があります。
ご注意ください。

(以下、本文)
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(ざわつく教室)

俺の席……俺の席……。
あった!

ギリギリセーフ…。

(彼女の隣の席につく)

ねぇ、ねぇ。

あっ…ごめん。
いきなり声掛けて…。
席、隣だから自己紹介しとこうと思って…。

俺、【自分の名前】って言うの。
そのまま呼び捨てで呼んで。

それ、何見てるの?
SNS?それとも、動画?
なんか楽しそうに見てるから、気になっちゃった。

えぇー。
ちょっとくらいいいじゃん。
教えてくれても…。

(ひと)()めはズルいと思いまーす。

(ひと)()めじゃないなら、教えてよ。
おもしろいものは皆で共有した方が楽しいよ?

『人は人、自分は自分』か…。

その考えは嫌いじゃないけど、寂しくない?
『この話題で語り合いたい!』って時に語りあえる相手がいないんだよ?

ふぅーん。
君って変わってるね。
今まで会ったことないタイプの人。

ヤダ。
ほっとかない。
だって、君に興味が()いたから。
もっと君のこと知りたい。
好きなこと、嫌いなこと、休みの日の過ごし方……ほかにも、たくさん。

ウザいのは承知の上。
それだけ必死なんだよ。

俺さ……ちょっと訳アリで…。
家の近くの学校に通えなくて、片道2時間かけて通ってるんだ。
だから、この学校で友達が一人もいない。

昨日も、そろそろ寝ようってベッドに入った途端、「もしも友達が一人もできなかったら…」って、急に不安になって眠れなくなっちゃって…。
気付いたら朝じゃん?
急げばギリギリ間に合う時間だったから、パパッと準備して、今さっき到着。
ほとんどグループも出来上がっちゃってるみたいだし、今更その中に「俺も仲間に入れてー!」みたいなノリで入っていく勇気はないし…。

このノリは無理してやってるの。
普段はこんなノリじゃないよ…。

で、「完全に出遅れた…」って落ち込みそうになってたところに、一人席に座ったまま誰とも話してない子を見つけたら、仲間だと思って声かけるのは当然っしょ?

へぇー。
仲間じゃないんだ…。

だったら、友達いるの?
このクラスに。

ほら。
いないんじゃん。
ぼっち同士、仲良くしよ?

そ。
俺と友達になろうよ。

なんでヤダ?
このままだと今年1年寂しい学校生活を送ることになるよ?
将来、高校時代を思い出した時に『1年の頃は、友達もいない寂しい毎日を送ってたな…』なんて思い出したくないっしょ?

ちょうどスマホ出してるんだし、連絡先交換しよ?
学校の課題とか分かんないことあった時に聞けるじゃん?

まぁ、まぁ、そう言わずに。
いつか役に立つ時が来るかもしれないし。
ないよりはマシだと思って。
ね?

分かってる。
「今、何してるの?」みたいな、特に何の用事もないのに連絡したりしない。
ほんとに困った時にしか連絡しない。
約束する。

やったね。
これ、俺の連絡先。
君のも教えて?

ん。
ありがと。

あぁ……ごめん。
俺、どうにも人との距離がバグってるらしくて、初対面なのにやたら近かったよね。
直そうと思ってるんだけど、なかなか直んなくて…。

次から気を付けるね。

話戻るけど、スマホで何見てたの?
ずっと気になってたんだけど…。

……動画…?
一緒に見てもいい?
ちょっとだけにするから。

(彼女と一緒に動画を見る)

…これ、好きなの?

(笑ってるのを堪えて)おもしろ…。
ヤバ…。
ダメだ…。
声、出ちゃう…。

(動画を見るのをやめる)

(しばらく笑いを堪えたあと、落ち着く)

(溜息)はぁ…。
腹筋崩壊するかと思った…。

よく普通な顔して見れるね。
おもしろくないの?

おもしろいのに笑わずに見られるってすごいね。
俺、無理…。
あのまま見てたら大爆笑して、周りから白い目で見られかねないもん…。

今の続き、家で見たいから、動画のチャンネル名、教えてよ。

ちょっと待ってね…。

(スマホをタップする)

…このチャンネルで合ってる?

チャンネル登録…っと。
帰ったらさっそく見てみるよ。

そういえば、ホームルーム終わったら部活見学とか行ける自由時間らしいけど、部活何に入るか決めた?

ふぅーん。
そうなんだ。

俺はねぇ…迷ってる…。

中学の時と同じ部活でもいいけど、せっかく高校に入ったんだし、新しいことに挑戦するのも悪くないかなって思ってて…。

とりあえず、全部の部活を見て回るよ。
実際見ないと分かんないこともあるし…。
で、気に入った部があれば、片っ端から仮入部してくつもり。

せっかくだし、このあと時間あるなら、一緒に見て回る?

あっそ…。
ほんと冷たいなぁ…。
いいよ。
一人で見て回るから。

(教室の扉が開いて担任が入ってくる)

あーあ、先生来ちゃった。

(小声で)またあとで、ゆっくり話そうね。