八雲れん
voice:八雲れん

義理チョコは全部俺のもの

(玄関の開閉音)

お邪魔しまーす。

あれ?
おばさんは?

ふぅーん。
出かけちゃったんだ…。

ん。
これ、母さんからおばさんに渡してって頼まれたヤツ。

中身は知らないけど、見せれば分かるって。

で、俺が今日呼ばれたってことは毎年恒例のアレ?

(溜息)はぁ…。
今年のも、レシピ通りに作ったんだろ?
だったら、うまく作れてるはずだって。

はいっ!
義理チョコ試食会、終了ぉー!

もうよくない?
義理で渡すのとか…。

ぶっちゃけ、なんで渡すのか意味分かんない。

だって、本命なら気持ちを伝えたいって意味があるけど、義理なんてただのばらまき行為じゃん。
そのためだけに準備して、配って回るのとか時間も金も無駄にしすぎ。

(ボソッと)こんなイベント、なくなればいいのに…。

あれもこれもって、食わされる身になれって言ったんだよ。

あ゛ぁ゛ー!
待て!待て!

…分かった。
食えばいいんだろ、食えば!

ったく…。
俺じゃないヤツに試食なんかさせるかっての…。

なっ…!?
これが今年の義理チョコ?

()りすぎじゃない?

いやいや。
今まではこんなに()ってなかったって。
もっと簡単にパパッと作れそうなものばっかだったじゃん。
クッキーとか、生チョコとか…。

(手を合わせて)…いただきます。

(試食する)

(モグモグしながら)んー…まぁまぁ、かな?

(ゴックンして、手を合わせて)ごちそうさまでした。
ちょっと甘すぎ。
もう少し甘さは控えめにした方がいいと思う。

って言っても、もう遅いよな。
作り直すにはバレンタインまで時間がないし…。

全部諦めて、このまま配るしかないんじゃない?

『でも』…何?
作り直さなきゃいけない何かがあるわけ?

…まさか、本命を渡す予定があるとか…?

…だよな。
うん。
そんな予定、お前に限ってあるわけないよな。

…なら、なんでそんなに落ち込んでるんだよ?

「まずい」って言ったんじゃない。
「ちょっと甘すぎ」って言っただけじゃん。
俺にとっては、ちょうどいいけど…。

このままでも十分うまいって。
義理で渡すのももったいないくらいの出来だと思う。

ってか、こんなの渡されたら勘違いするヤツ出てくるだろ…。

あのな?
男って生き物は皆バカなんだよ。
どんなに頭のいいヤツでもこの時ばかりはバカになんの。

義理だって言われて渡されたとしても、開けてみればこんな()った手作りチョコ…。
『義理って言ったのは恥ずかしかったからで、ほんとは自分のことが好きなんじゃ…?』って思うんだよ。

思わないことはない。
俺も男だから分かる。
絶対勘違いするヤツの一人や二人出てくる。

あぁ、そうかよ。
だったら、好きにすればいい。
でも、何か起こってから俺に泣きついてくんなよ。

『なんで?』じゃないっつーの。
俺の忠告無視するんだから、あとは自己責任だろ。

イヤなんだったら、今年以降バレンタインにチョコは誰にも渡すな。
俺とおじさん以外には。

うるさいなぁ…。
お前から貰えなきゃ、誰からも貰えないからに決まってんだろーが!
悲しくなるようなこと言わせんな!
バカっ!

いいな?
へ・ん・じ!

ん?
このチョコの山?

……全部俺が貰ってく。
お前のチョコは全部俺のって決まってるから…。

じゃ、また明日な。