(彼女が帰ってくる)
おかえり。
よかった…。
すれ違いにならなくて。
あと10分遅かったら迎えに行こうと思ってたとこだったから。
だって、何度メッセージ送っても全然既読つかないし、電話しても出てくれないんだもん。
これだけ連絡しても通じないってことは、普通に考えて事件とか事故に巻き込まれたかも…って、心配になるのは当然じゃない?
ってか、女子会といえど、もう少し早く帰ってくることはできなかったの?
楽しくて帰りたくない気持ちになるのは分からなくもないけど、女の子がこんな遅い時間に帰るのはどうかと思うよ?
次からお開きの時間が遅かろうが早かろうが関係なく、絶対迎えに行くからね?
じゃないと、行かせらんない。
危ないから言ってんの。
変な人はいつでも、どこにでも湧くんだから。
それはそうと、外寒かったでしょ?
手洗って、うがいしておいで。
その間にあったかい飲み物用意しとくね。
(彼女の左手薬指に指輪がないことに気付く)
……ねぇ。
指輪、どうしたの?
俺が初めてあげた指輪だよ。
「絶対に外さないでね」って言ったよね?
その時『うん』って言ってくれたのに、どうして今指輪してないの?
どういうこと?
ねぇ。
説明してよ。
……なんで黙ったままなの?
あぁ、分かった……浮気か…。
『女子会に行く』って言ったのは、そう言えば俺が「いいよ」って言って、一人で外出できるから。
指輪を外してたのは、浮気相手に会うのに指輪が邪魔だったから。
なのに、今日はこんなに遅くなるまでお楽しみだったせいで、つい指輪ハメるの忘れちゃった。
そんなとこでしょ?
真相は。
いいよ。いいよ。
言い訳なんか聞きたくない。
ずっと信じてたのになぁ…。
こんな形で裏切られるなんて…。
で、俺のこと捨てるの?
悪いけど、別れてあげる気なんか、これっぽっちもないからね。
もし、本気で別れる気なら、君を殺して、俺も死ぬ。
そうすれば、ずっと一緒にいられるでしょ?
……これは冗談でも脅しでもないよ。
超本気。
俺以外のヤツに君を渡してたまるもんか…。
…『浮気してない』?
ほんとに女子会に行ってたの?
だったら、証拠ある?
へぇー。
女子会で写真撮ったんだ。
じゃぁ、それ見せてよ。
スマホごと、俺に貸して。
ふぅーん。
確かに女子会行ってたんだね。
すっごい楽しそうだし、おいしそうなものばっか…。
あっ…これ、俺の好物じゃん!
おいしかった?
君だけ食べてズルい…。
今度、俺とも行こうね。
はい。
スマホ返す。
「浮気してる」なんて言ってごめんね。
とはいえ、指輪がない理由とは関係ないよね?
指輪はどこにあるの?
今すぐハメて?
そしたら、許してあげる。
…『なくして、見つけらんなかった』?
そっか。そっか。
だから、帰るの遅かったんだ…。
もういいよ。
謝んないで。
(彼女を抱きしめる)
ありがとね。
見つけようといっぱい走り回ってくれて。
探し回るほど大切にしてくれて。
その気持ちが嬉しい。
今度からは、隠さないで話して?
正直に話してくれたら、怒んないから。
いい?
約束だよ?
じゃぁ、次の休み、さっそく新しい指輪買いに行こっか。
いいも悪いもないよ。
俺がそうしたいだけ。
身に付けるなら、やっぱりお揃いのものが欲しいじゃん?
また左手薬指に似合うの、選んであげるね。
それまでは、コレで我慢して。
(彼女の左手薬指の根元を噛む)
ん?
痛い?
そりゃ当たり前だよ。
痛くしてるんだもん。
俺が指輪のない君の手を見た瞬間、どんな気持ちだったか分かる?
…胸が張り裂けそうだった。
全身の血がサーって引いてくのが分かるくらい、ショックだった。
俺がそれだけ痛い思いをしたんだから、君も同じくらい痛い思いをして。
ふふ。
噛みちぎりはしないよ。
…けど、それもアリかもね。
うまく関節に歯がはまれば、人間の歯でも噛みちぎることもできるし…。
意外と簡単に。
そしたら、正真正銘、君と俺はひとつになれるね。
…嘘だよ。
噛みちぎったりしない。
そんなことしたら、指輪ハメらんなくなるじゃん。
さすがに、それはヤダもん。
君の指には俺が選んだ指輪をハメててほしい。
周りのヤツらに見せつけてほしい。
(彼女の指を口から離す)
あ……ごめんね。
血、出ちゃってる…。
ちょっとやりすぎちゃったから、痕になっちゃうかも…。
でも、これで簡単に消えることはないよ。
また指輪をなくしたとしても、君は俺のものだって周りには見せつけられるよね。
…ほかにももっと付けたいな。
俺のものって印…。
そうでもしなきゃ、指輪がない今、ほかの男に手出されかねないし…。
いいよね?
俺のこと、好きなんだもんね?
ダメなんて言わないよね?
指輪をなくした罰として、今夜は一晩中おしおき……ね?