(インターホンが鳴る)
(玄関扉を開ける)
いらっしゃい。
入って。
(玄関扉が閉まる)
飲み物、何がいい?
コーヒーか紅茶くらいしかないけど…。
ん。
了解。
適当に座って待ってて。
すぐ
(彼氏:キッチン、彼女:リビング。距離あり)
俺の家に来るの、久しぶりじゃない?
(彼女:「そうだね。2ヶ月ぶりくらいだと思うよ」)
そっか…。
そんなに
(彼女:「これ、何?」)
それ?
バレンタインのお返し。
受け取って。
(彼女:「ありがと。このチョコ、食べてみたいって言ったヤツ?」)
そ。
前に君が『食べてみたい』って言ってたとこのチョコ。
「チョコにチョコ返すのもな…」って思ったんだけど、欲しい物の方がいいと思って。
(彼氏、リビングにやってくる)
はい。
お待たせ。
熱いから舌ヤケドしないようにね。
(彼女:「今、食べてもいい?」)
いいよ。
今食べても。
ってか、俺に聞かなくても、そのチョコは君のものなんだから、好きな時に食べて。
(彼女:「じゃぁ、遠慮なく…」)
どうぞ、
……おいしい?
(彼女:「うん、とっても!」)
喜んでくれてよかった。
(彼女:「チョコとは違う甘い匂いがするのは気のせい?」)
ん?
チョコとは違う甘い匂い?
…知らないよ?
気のせいじゃない?
(彼女:「隠さなくていいよ。クッキー焼いてたんでしょ?」)
(ちょっと拗ねて)気付いてるなら、回りくどい言い方しないでよ。
(独り言っぽく)バレないと思ったのになぁ…。
君の言う通り、お菓子作ってた。
バレンタインのお返しにクッキーをね。
今年のお返しは、どうしても手作りにしたくて…。
でも、絶対成功するって保障もないじゃん?
だから、そのチョコは万が一の時のための保険。
だってさ、今までお菓子作りとかしたことないんだよ?
超初心者だよ?
『お菓子作り 初心者 おすすめ』で検索したら、クッキーが出てきて、レシピ見て、難しくなさそうだったから挑戦してみたんだけど……見事に撃沈…。
ちょっと
分量とか工程とか、全部レシピ通りにやったのにな…。
何がいけなかったんだろ…?
(彼女:「焦がしたクッキーはどこ?」)
捨てるのはもったいないし、あとで自分で食べるために取ってあるよ。
……まさか、今食べたいとか言わないよね?
(彼女:「そのまさか。今食べたい!」)
無理!無理!無理!
チョコで我慢して。
(彼女:「お願い。1個だけちょうだい?」)
(溜息)はぁ…。
こういう時ばっか、甘えてきて…。
食べた後でお腹壊したり、気分悪くなっても知らないからね?
全部自己責任だからね?
ちょっと待ってて。
持ってくる。
(少し間を開ける)
ん。
これ。
(彼女:「焦げてないじゃん」)
この辺とか、ちょっと
(彼女:「いただきまーす」)
あっ!
なんで
『ぺっ』ってして。
ほら。
今食べたの、『ぺっ』ってして。
(彼女:「無理したないし、普通においしいよ?」)
『おいしい』とかお
(彼女:「ほんとにおいしいって。いっぱい愛情こもってるから」)
(嬉しい感じで)ん゛ん゛ー……もう…。
…ありがと。
ねぇ。
クッキーって焼いたことある?
(彼女:「あるよ」)
なら、今度一緒に作ろ?
で、俺に教えて?
(彼女:「いいよ」)
来年こそはうまく作るから、期待しててね?