ホストは姫を離れさない

(ホスト、卓につく)

お待たせ。
姫。

久しぶり。
来てくれてありがとう。

最近なかなか来てくれなかったよね?
お仕事が忙しかったとか?

(姫、『違う』と否定する)

違うの?
じゃぁ、なんで?

……『俺のことで悩んでた』…?

それって、この間卓についた時、俺が姫を悩ませるようなことを言っちゃったから?

……『そうじゃない』?

ねぇ、姫。
なんで姫が俺のことで悩んでたのか、分かるように説明してくれないかな?

(姫、話し始める)

(相槌数回)

……そっか…。
『俺のことが好きすぎて、どうしたらいいか分かんなくなっちゃった』か…。

ありがと。
悩んじゃうほどに俺を好きでいてくれて。
すっごく嬉しい。

でも、ごめん。
俺には姫の悩みを解決してあげられない。

だって、俺は俺のことが好きな子のことが好き。
一人の姫を特別に好きとかはなくて、皆のことが同じくらい好き。

この仕事をしていく以上、誰か一人を選ぶことはないよ。
ほかの女の子と楽しく話したり、楽しい時間を過ごすのは仕事って割り切ってる。

うん。
ほんと。

でなきゃ、仕事になんなくてクビになっちゃう…。
そしたら姫とももう会えなくなるよ?

それでもいい?

イヤだよね?
俺も姫と会えなくなるのはイヤ。

だから、「そのまま好きでいて」って言うしかできない。

もし今、誰か一人にしなきゃいけないなら、誰も選ばない。
俺のために争ってほしくないもん。

だとしても、いつか……誰か一人を選ぶ時が来たら、仕事を辞める。
やっぱり、こういう仕事ってチャラいとか軽薄って思われるじゃん?
好きな子にはそんなふうに思われたくない。

それに、姫たちに悲しい思いをさせたくないしね。
『一人の姫を選んだから自分が選ばれなかった』って…。

ほら。
想像しただけで悲しそうな顔した。

ね?
俺は姫にそういう顔させたくないんだよ。

いつも笑顔でいてほしい。
卓につく時に『来たよー!』って笑顔で好き好きオーラ出して、ボトル入れてくれて、楽しい時間を過ごしたい…。

…というのは俺のワガママ。
聞き流しといて。

…悩んでる途中で俺のこと嫌いになったり飽きたりしたら、俺から離れてくれて構わないから。

(姫に言い聞かせるように)大丈夫。大丈夫。
離れたからって、姫のこと嫌いになったりしない。
事実として受け入れるだけ。
姫を夢中にさせるだけの魅力が俺になかったからだ、って…。

ふふ。
あり得ないの?

ずっとずっと好きでいてくれるの?

ほんとに?

ありがと。

じゃぁ、ずっと好きでいてくれるって宣言してくれた姫に、ひとついいこと教えてあげる。

これは誰にも教えてない特別な情報。
誰にも言っちゃダメだよ?

もっと近くに寄って。
誰かに聞かれちゃう。

(姫、ホストの近くに寄る)

(小声で)俺に振り向いてほしかったら、もっと自分磨きをがんばって。

外見を…というより、中身を磨いて。

綺麗なだけ、かわいいだけなら世の中にごまんといる。
その中で、中身まで磨かれてる人はなかなかいなくない?

知識だったり、技術だったり…どんなことにも対応できるだけのスキルを身につけて。
特別な何かを持って。

そしたら、ほかの姫たちより一歩リードできるよ。(小声終わり)

(普通に戻って)以上。

ちゃんと覚えた?

ん。
さっすが、姫!

(以下、最後まで耳元で)
俺は、俺のためにがんばる子が一番好きだから。

がんばってね。
姫。