(会社の外に出てくる彼女)
お疲れ様です。
ふふ。
驚きました?
研究がやっとひと段落ついたので、貴女に会いたくて待ってました。
「研究を優先したい」っていう僕の都合に合わせてもらって、いつも寂しい思いをさせて、ごめんなさい。
明日休みが貰えたので、デートしませんか?
…って言っても、貴女はお仕事ですよね…。
(食い気味に『休む』という彼女)
休む!?
そんな……いいんですか?
だって、お仕事ですよ?
…まぁ確かに、次いつ会えるか分からないですけど…。
(彼の休みを自分とのデートで1日潰していいのかと気にする彼女)
僕のことは気にしなくていいんですよ。
休みの日に体を休めることも大事ですが、それよりも先に貴女の寂しさを埋めてあげたいんです。
我慢させてばかりですから…。
(おずおずと)……ダメ、ですか…?
(納得してくれない彼女)
分かりました。
デートに関しては、家でゆっくり考えることにしましょう。
ね?
(納得してくれた彼女)
では、お手をどうぞ。
お嬢様。
お屋敷までエスコートいたします。
……(笑いながら)なんちゃって。
(手を繋いで歩きだす)
こうして手を繋いで歩くのも、久しぶりですね。
なんだか、緊張します…。
…会えない間、どうでしたか?
何か変わったことはありませんでしたか?
(彼女が近況報告をする)
…そうですか。
僕の方も、相変わらずです。
毎日研究に明け暮れてました。
(風が吹く)
(風に乗って金木犀の香りがする)
金木犀の香り…。
この近くに金木犀が咲いてるんですかね?
……そういえば、金木犀って、いい匂いがするだけじゃなくて、いろんな効能があるって知ってますか?
たとえば、イライラしてる時。
金木犀の香りの成分であるリナロールにリラックスさせる効果があって、嗅ぐと落ち着くことができるんです。
寝つきが悪い時にもよくて、精神を鎮静化させてくれるので安眠できるんです。
あとは、ダイエット効果があります。
お腹が空くと、脳内でオレキシンという物質が増加するんですが、金木犀の香りを嗅ぐとオレキシンが減少するんです。
つまり、空腹感が減るので、食べる量も減って、体重が減るって感じですね。
それから、お茶にして飲むと血流がよくなって体を温める効果も…。
(我に返って)……あっ…。
またやってしまった…。
すみません…。
自分の得意分野の話になると夢中になって話してしまう、僕の悪い癖が出てしまいました…。
専門用語ばかりで、つまんない話だったでしょう?
適当に聞き流して忘れてください…。
(自虐的な自分語りっぽく)……今まで付き合ってきた人たちに言われたんです。
『専門用語で話されても何言ってるか全然分かんない』って…。
ほかにも、研究優先の生活だからか、『研究と私、どっちが大事なの?』とか『ずっと会えないとか付き合ってる意味ある?』とか…。
正直、研究と恋愛を天秤にかけたら、迷わず研究を選びます。
自分にとって一番やりたいことですし、恋愛に
そのせいで、貴女には我慢を
……そう遠くない未来に貴女に捨てられるのかも…。
(いきなり立ち止まり、ちょっとオコな彼女)
…あの……何を怒ってるんですか?
『勝手に気持ちを決めないで』と言われても、つまらなかったから、黙ってたんですよね?
今までの人たちもそうでしたし…。
……『つまらなくなかった』…って、金木犀の話が…?
…本当に?
けど、何言ってるか分かんなかったんじゃないですか?
…楽しそうに話してる僕が好き……?
(彼女を優しく抱きしめる)
……こんな恋愛不適合者の僕をありのまま受け入れてくれるんですか?
(彼女、『もちろん』と即答する)
……貴女は僕の元に舞い降りた女神様です…。
言い過ぎなんかじゃないです。
本当に女神様です。
僕のしたいようにさせてくれるだけでなく、専門用語ばかりのつまらない話も聞いてくれる…。
……貴女に出会えて、本当によかった…。
(彼女から体を離す)
よし!
今日は歩いて帰るつもりでしたが、タクシーを使ってさっさと家に帰りましょう。
いいんです!
今日だけは贅沢しちゃいます!
(小声で)…ありのままの僕を受け入れてくれた代わりに、僕もありのままの貴女を受け入れたくて…。
いろんな意味で…。
(ちょっぴり拗ねて)そりゃ、僕も男ですから…。
好きな人と愛し合いたいと思うのは、自然なことでしょう?
一応確認ですけど、明日のお仕事はお休みするんですよね?
(悪い大人っぽく)僕の中のオオカミが貴女のおかげで暴走気味になってしまった責任を取って、最後まで付き合っていただかなくてはならないので確認したまでです。
(耳元で)…今夜は寝かしませんから覚悟しててくださいね。
(2人の歩く足音)