夏休みで帰省してきたばかりのスーツ姿の憧れのお兄ちゃん

(夜道を歩いている)

……あれ?

久しぶり。
こっちに帰ってきてたんだ。

夏休み?

そっか。

うん。
僕も明日から夏休み。
数年ぶりに帰ってきたけど、お店とか結構変わったね。

違う!違う!
帰りたくなかったわけじゃないよ!
帰るつもりではいたんだけど、仕事の都合ってあるじゃん。
プロジェクトだったり、緊急案件だったり…。
いろいろあって、なかなか帰れなくて…。

…そしたら、ついに母さんから電話きちゃってさ…。
『いい加減、帰ってきなさい』って。

今までは『元気ならそれでいい』とか適当な感じだったのに、急に『帰ってこい』なんて裏がありそうじゃない?
イヤな予感がして、それっぽく探りを入れたら、お見合いさせられるかもしれなくて…。

ただの勘違いなら、それでいいんだけどさ……僕もいい歳だし、言葉に出さないけど『そろそろ孫を…』とか思ってると思うと、ね…。

……残念ながら、彼女はいないよ。
自分の時間も取れないくらい忙しいのに、恋愛なんてしてらんない。
仮に恋愛してたとしても、『私と仕事、どっちが大事なの?』って言われて、捨てられちゃうって。

……君は、夏休みとか冬休みの(たび)に帰ってきてたの?

ふぅーん。
(小声で)だったら、無理してでも帰ってきたらよかった…。

うぅん。
こっちの話。

それにしても、女の子が夜に一人で出歩くのは感心しないな。
危ないよ?

すぐそこのコンビニまでだろうが、危ないことに変わりないでしょ?
不審者はいつでも、どこでも現れるんだから。

家まで送ってく。

うぅん。
ダメ。
遠回りになったとしても、送ってく。
ここで別れた後に危ない目に遭ったとか聞きたくないもん。

ね?
素直に送られて?

(2人、歩き出す)

……ん?
どうしたの?
僕の顔に何かついてる?

あぁ……スーツね。
つい数時間前まで仕事してたんだよ。
一旦帰って着替えるのがめんどくさくて、仕事終わって、その足で帰ってきちゃった…。

(彼女が急に近づいてくる)

ちょっ…近いっ!近いっ!
あんま近づかないで。

……汗の匂い、嗅がれたくない…。

いい匂いなわけないでしょ。
まぁ、香水はちょっとだけ付けてるけど…近づいていい理由にはなんないよ。

どこの香水使ってるか…?

ごめん。
分かんない。
そういうの(うと)くて、『香水 男物 ウケがいい』で検索して、レビューの高いのを買ったから…。

ほら。
いつまでこの距離でいるつもり?

(言い聞かせるように)そろそろ離れなさい。

(近づいてきた彼女を引き剥がす)

で、夏休みはいつまで?

それまでの間に予定が入ってない日は?

そっか。
久しぶりに会えたし、お出かけしない?
もちろん君の都合に合わせるよ。

……どう?

決まり。
また明日にでも連絡する。

(彼女の家に到着)

もう着いちゃった…。

名残惜しいけど、今日はここまで。
またゆっくり話そうね。

じゃぁ、ちょっと早いけど……おやすみ。