(玄関扉の開閉音)
おかえり。
今日、遅かったじゃん。
どうしたの?
ふぅーん。
残業ね…。
(彼女をハグする)
ん?
着替え?
別にしなくてもいいんじゃない?
今はまだ。
……ねぇ。
気付いてる?
顔、すっごいブスだよ?
なんかね、普通にヤバイ顔してる。
眉間に皺寄せてるし、鬼みたいに目がキッってつり上がってて、超怖い。
ひどいも何も、ほんとにそういう顔してるから教えてあげてるだけじゃん。
どうせ、その顔で仕事してたんでしょ?
職場の人たちに本気で怖がられちゃうよ?
怖がられるならまだマシか…。
最悪、嫌われるかも…。
うん。
それくらい怖い顔してる。
はい。
一緒に深呼吸!
いいから、ほら!
吸って。
吐いて。
…まだ怖い顔してる…。
もう1回、吸って。
吐いて。
…うん。
さっきよりはマシになった。
忙しいのは分かるけどさ、ちょっとくらい休んだら?
そんなにがんばってどうするの?
体ぶっ壊すよ?
……あのさ、ちなみに聞くけど、次の休み、いつ?
はぁ!?
何それ!?
なんでそんな先になるまで休みがないわけ!?
意味分かんない。
俺と出かけるって約束、どうなんの?
(怒りに満ちた溜息)はぁ…。
…もういい。
(彼女から体を離す)
(ノートPCを開いて、マウスをクリックしてる音)
ん?
ちょっといいこと思いついちゃっただけ。
俺のことはほっといていいから、自分のことしてきなよ。
「さっさと着替えておいで」って言ってんの。
いつまでスーツでいるつもり?
よしっ!
できた!
予約完了。
そ。
予約してたの。
前に行ってみたいねって話してた温泉旅館。
あそこ行こ。
ダメ!
君も一緒に行くの!
ほら。
確認メール見て?
『ひと部屋二名様ご予約承りました』って書いてるでしょ?
もう二人で予約取ったんだから、今更行かないとかナシだよ。
大丈夫。
さっき君が言ってた次の休みあたりで取ったから。
んとね…ここからここまで。
休み、取れそう?
『たぶん…』じゃなくて、絶対取って。
何が何でも取ってきて。
…ほんとはさ、こんなに強引なやり方で連れて行くつもりじゃなかったんだよ?
でも、こうでもしないと休んでくれないじゃん?
たまには日常を忘れて、こういうとこでのんびり過ごさないと…。
普段からがんばりすぎだなぁって思ってたけど、最近は一段とがんばりすぎ。
明らかにキャパオーバーしてる。
そんなんじゃ、どんなにがんばっても空回りなだけ。
ってか、普段から息抜きすればいいのに…。
なんか疲れたなぁ…って思ったら、トイレ行くふりして、ちょっと外の空気吸いに行ったりとか、甘い物つまんだりとか、やり方はいろいろあるじゃん?
何事も適当くらいがちょうどいいんだって。
ほどほどを知りなよ。
なっ!?
サボりじゃないし!
息抜きって言ってるでしょ!
ったく…。
普通に失礼なんだから。
とにかくっ!!
旅行まではほどほどにがんばること。
で、旅行は思いっきり楽しむこと。
いい?
休みまで、もうちょっとだけ……無理しない程度にがんばろうね?