(彼氏、こたつに全身入ってあったまっている)
ん゛ん゛…何?
邪魔?
なんで?
…掃除なんかしなくてもよくない?
大して汚れてないんだし…。
『隅っこに埃が溜まってる』?
……あの程度、溜まってるうちに入んない。
どこぞの姑みたいなこと言わないで。
ヤダ!ヤダ!
こたつから出ないっ!
もう!やめてよっ!
こたつ布団めくらないで!
せっかくのあったかい空気が、どっか行っちゃったじゃん。
掃除したきゃ、勝手にすればいいでしょ。
俺がいないとこだけ。
俺のいるとこはしなくていいよ。
汚さないように気を付けてるから、掃除する必要ないし。
ん?
このあと?
特に予定はないけど……何かあるの?
『買い出し』?
あっ!ヤバっ!
急ぎの案件の確認やんなきゃいけないんだった。
いやー、すっかり忘れてた。
ありがとね。
思い出させてくれて。
だから、買い出しには付き合えない。
荷物が多くなったら連絡くれれば行くからさ。
(こたつから出ようとせず、余計に丸まる彼)
ほんとにやるよ?
急ぎの案件。
今はそれに向けてのやる気の充電中。
サボってるわけでも、怠けてるわけでもないから。
何事もやる気にならなきゃ始まんなくない?
嫌々やってても終わるまで時間ばっかかかるし…。
だったら、やる気充電して、気分が乗ったところで一気に片付けた方が効率いいでしょ。
ってかさ、こたつに全身入って丸まってるのって最高に幸せだと思わない?
「今、このこたつは俺のもの!」って独占できてる感じがさ…。
でも、怒られるんだよねぇ。
こたつに全身入ってると…。
邪魔だの、入れないからスペース開けろだの、散々文句言われる…。
寒いから全身入ってるってのに、俺の気持ちを誰も分かってくれない…。
……ほんと、こたつむり最高…!
分かる?
俺の気持ち。
ふぅーん。
だったら、君もやってみれば、俺の気持ちの欠片くらいは理解できるよ。
掃除なんかいいから。いいから。
あとででもできるでしょ。
今はこたつに一緒に入ろうよ。
ほら。
おいで。
(彼女をこたつに引き入れる)
ね?
気持ちいいでしょ?
このあったかさに包まれるとダメ人間になっちゃうんだよね…。
「もう全部どうでもいいや…」みたいな。
けど、こたつのすごいところはこれだけじゃなくてね。
実は、全身入るだけでも幸せなのに、もっと幸せな気持ちになるための方法があるんだよ。
あのね…。
(彼女を抱きしめる)
…こうやって、ギューってするの。
こたつでぬくぬくあったまってる中、自分の体温と君の体温が合わさると、一人でこたつに入ってる時より二人でこたつに入ってる時の方がもっとずっと幸せな気持ちになんない?
あっそ。
じゃぁ、寒い中、掃除でもなんでもやってればいいじゃん。
俺は一人寂しくこたつむりになってるから。
(拗ねて)ふんっ!
知らない。
俺のことなんかほったらかしてたらいいよ。
…名前、呼ばないで。
俺のことなんかどうでもいいくせに…。
……もうー!何!?
何度も何度も人の名前呼んで…。
『呼んだだけ』とかくだらない理由だったら怒るよ?
……マジで呼んだだけとか…。
意味分かんない…。
怒る気も失せた…。
(彼女を抱きしめる)
ん?何?
『離して』?
なんで?
理由は?
ヤダ!
絶対ヤダ!
『離してほしいから』なんて理由で離すわけないじゃん。
悪いけど、君を離す気はないから。
別に意地悪してるわけじゃないし。
ただ抱きしめたいから、抱きしめてるだけ。
それだけだよ?
そもそも、簡単に離してあげるなら、最初から抱きしめたりしないって。
どうしても離してほしければ、自分で抜け出しなよ。
……抜け出せるものなら、ね。
あれ?
抵抗しないの?
ふふ。
さすがに長い付き合いなだけあるね。
俺のこと、よく知ってる。
(彼女にスリスリする)
たまには甘えたっていいでしょ?
こうも寒いと人肌恋しくなるし…。
こたつに入ってても人肌恋しくなる時はあるの。
ってか、さっきから文句ばっか言ってるけど、そんなに俺に抱きしめられるのイヤ?
イヤじゃないなら、このままでいてもいいじゃん。
掃除はしなくてもいいって言ってんだし…。
今日は1日だらける日。
はい。
決定ー!
(あくび)ふぁ…。
ヤバ…眠くなってきた…。
こたつ入ってると「眠くなる魔法でもかかってんのか?」ってくらい眠くなんない?
寝ちゃダメだって思ってるほど眠くなっちゃう…。
ん…ダメだ…。
ちょっと寝る…。
30分だけの仮眠にすれば文句ないでしょ?
『急ぎの案件』?
あぁ…あれ、嘘。
寒い中、買い出し行きたくなかったんだもん。
こたつでぬくぬくし始めたら抜け出せないし…。
はいはい。
タイマーセットして……っと。
起きたら買い出し付き合うから。
怒んない。怒んない。
寝るよ?
…おやすみ。