ワニ系彼氏はお見送りがしたい

【寝室のドアが開く音】

ん?
もう行く?

寝てるか確認しなくったって、大人しく寝てるっつーの。
そこまで子供じゃねーよ。

体温?
まだ測ってねー。

やっぱ、測んなきゃダメ?

絶対にダメ?

…ん。
分かった。

(体温計を脇に挟む)

こういう時のお前って、やけに押しが強いよな。
ちょっと意外だったわ。

普段のおっとりした感じからは全然想像できねーから。
お前の新たな一面が見れたし、体調崩すのも、悪くねーかもな。

(体温計が鳴る)

ん。
見て。

俺は(一切いっさい)見ねー。
見たらダメな気がする。

(咳き込む)ゴホッゴホッ

寒気はしねーけど、頭と喉が痛いくらい。

食欲?
全然ない。

…『残念』って何?

お粥?
俺のために?
わざわざ作ってくれたの?
マジ?

…ヤバ。
嬉しい。

食べてもいい?
ひと口だけでも…。

えぇーっ!?
『あーん』するの?

そこまでしてくれなくていいって。
自分で食べれるから。

遠慮してるわけじゃねーよ。
自分のことは自分でできるし。

ん゛ん゛……もう…。
じゃぁ、フーフーして。
俺、猫舌だから、熱いの無理。

…あーん。

んっ!
うまい!

体中に染み込む優しい味がする。
お前そのものって感じ。

ひと口でいいって言ったけど、もうひと口食べさせて。

いいじゃん。
熱出た時はしっかり食べて、体力つけねーと、だろ?

…あーん。

元気出てきた。
ありがとな。

(独り言っぽく)自分の準備でも時間かかるのに、わざわざ作ってくれて…。
しかも、食べさせてもらうオプション付き…。
最高すぎだろ…。

ん?
なんでもねー。
こっちの話。

俺のことは気にせず、仕事行ってこいよ。
ほんとに大丈夫だから。

今日1日寝て、汗いっぱいかいたら、夕方には熱も下がってるはずだし。
そこまで心配することじゃねーよ。

俺の体は俺が1番よく知ってるの。
だから、薬もいらねー。

別に薬が嫌いとかじゃねーって。
あんまり薬に頼りたくねーだけ…。

ほら、そろそろ時間だろ?
玄関まで見送る。

ヤダ!
一緒に行けねーんだから、玄関まで見送る!

お前見送ったらちゃんと寝るから。
約束するって。
な?

『しょうがない』って何だよ。
意味分かんな……んっ!?

(触れるだけのリップ音)

おまっ…!?
風邪ひいてる奴にキスするバカがどこにいる!?

お前の元気分けてもらわなくても、十分元気だわ。
お前の愛情たっぷりのお粥食べたんだからな。

…ったく。
今のキスに(めん)じて、見送るのやめてやるよ。

知らねー奴について行ったらダメだからな?
寄り道せずに真っ直ぐ帰ってこいよ?

ん。
気をつけて、いってらっしゃい。

帰ってくるの、待ってる。