よっ!
久しぶり。
高校卒業して以来だな。
元気してた?
俺?
俺は大学卒業してからサラリーマンやってる。
仕事が楽しすぎて恋愛する暇もないような感じ。
…ごめん。今の嘘。
あまりに仕事に没頭しすぎて、先週振られた。
笑うなよ。
同窓会じゃん?
久々に会う奴らばかりだし、少しくらいかっこつけたいじゃん。
お前はどうなの?
今、仕事とか。
へぇ~。
なんか大変そうだな。
そんなに大変だと恋愛とかできないんじゃない?
えっ……結婚した?
俺、知らないんだけど。
式、挙げてないんだ。
いつ結婚したの?
大学卒業してすぐ…。
……幸せ?
『なんで?』って、なんか暗い顔してるから、結婚生活辛いのかなって思って…。
ごめんっ!
他人の家の事情を勝手に根掘り葉掘り聞いたりして。
……でも、俺でよければ聞くけど?
(数回相槌をうつ)
えっ!?
旦那、不倫してるの?
さすがに、ひどすぎないか?
はぁ!?
相手の女のことも知ってるって、どういうことだよ…。
(小声で)
あっちに個室あるから、そこでゆっくり話聞かせて。
ここじゃ、さすがにオープンに話す内容じゃないからな。
飲み物持つよ。
荷物持って、ついて来て。
(個室に移動)
はい、ここ座って。
それで、さっきの続きだけど…。
相手の女を知ってるって言ってたけど、どういうこと?
…旦那の会社の新人の子なんだ。
ってか、不倫してるって確証を持ったのは何か見たの?
携帯でやり取りしてるの見ちゃったんだ。
してる最中の写真や動画も残ってたんだ…。
そこまでの証拠があるのに、どうして離婚しないんだ?
そんな扱い受けてたら辛すぎるだろ?
旦那、離婚届にハンコ押してくれないとか?
そうなんだ…。
(ムッとして)
話を聞いた限りだと、お前が置かれている状況はあまりにも酷すぎる。
いつまでも旦那と一緒にいる必要はないと俺は思う。
これは俺の勝手な持論なんだけど、結婚ってさ、二人で幸せになっていくためにするものじゃん。
だけど、今のお前、全然幸せになってないじゃん。
むしろ、めちゃくちゃ不幸になってる。
今のお前見てるの、俺、すごい辛い。
泣いてもいいんだぞ?
どうせ泣いてないんだろ?
お前って、昔から辛いことあっても泣かないよな。
辛くても泣かないのはお前のいいところだけど、悪いところでもあるんだからな。
そんな辛そうな顔で笑うなよ。
無理矢理笑ったりするなよ。
俺の前だけでも、素の自分、曝け出していいんだぞ?
ずっと同じクラスで『オシドリ夫婦』とまで呼ばれてた俺達の仲じゃん。
それくらい受け止めてやるって。
よしよし。
辛かったな。
苦しかったな。
いっぱい泣いて、いっぱい吐きだしちまえ。
なぁ、抱きしめてもいい?
『なんで?』って、泣いてるお前見てたら、なんか急に抱きしめてあげたくなったから。
嫌だったら、しないけど…。
ん、おいで。
(抱きしめる)ギュー
お前が弱ってる時に言うことじゃないんだけど、次いつ会えるか分かんないから、今言わせてもらう。
ただの独り言だから、聞き流してもらっていいから。
覚えてないと思うけど、高校入学してすぐの頃、クラスに全然 馴染めなくて、いじめの標的になってたんだよ。
そんな俺の側にいつもお前はいてくれた。
何をするわけでもないんだけど、ただ側にいてくれたことがすごい嬉しかったんだ。
『周りが敵ばかりなのに、一人だけでも味方がいてくれるのがこんなにも心の支えになるのか』って初めて知った。
それから2年に進級して、また同じクラスになれて、ずっとお前を見てた。
いつから好きだったのか覚えてないけど、気付いたら、ずっとお前を目で追ってた。
笑ってる顔、勉強中の真剣な顔、球技大会で負けて悔し涙を流す顔…。
どれも見てきた。
どの顔も好き。
高校卒業して、離れ離れになって、いい加減お前のこと忘れようと他の子とも付き合ったりしたんだけど、どうしても長続きしなかった。
心のどこかでお前と比べてたんだと思う。
お前ならこうしたかな、とか、お前ならこう思うかな、とか。
どうしても忘れられなかった。
社会人になってからは、ただがむしゃらに仕事に打ち込んだ。
お前を忘れるために。
恋愛で忘れられないなら仕事に打ち込んで余計なことを考える暇をなくせばいいと思った。
そんな矢先に高校の同窓会の通知が来た。
聞けばお前も来るって言うし、すぐに出席の返事をした。
俺のことなんて、忘れてるかもしれない。
家庭を持って、幸せな日々を送ってるかもしれない。
でも、一縷の望みに賭けたんだ。
お互い独身で恋愛にならないまでも俺のこと覚えててくれるかもしれないって。
覚悟はしてきたつもりだったけど、お前の口から『結婚』の二文字を聞くのは辛い。
しかも、幸せになってないと聞くと、更に辛い。
俺だったらお前にそんな辛い思いなんてさせない。
泣かせたりしない。
悲しませたりしない。
いつも笑顔でいさせてやる。
…今からでも遅くない。
旦那と離婚して、俺と人生やり直さないか?
無理って決めつけるなよ。
諦めるなよ。
俺は待つ。
いつまでも待つから。
(話を切り替える感じで)
あのさ、今夜は家に帰るの?
もし帰らないなら、今夜一晩を俺にくれないか?
一夜限りでいいから、お前との思い出が欲しい。
夜が明けたら、お互い元の生活に戻るってことを条件で。
どう?
無理強いはしない。
どうしてもダメなら諦めるから。
いいの!?
本当に!?
ありがとう。
じゃぁ、荷物持って。
二人で抜けよう。
(会場を後にする)
なんだか駆け落ちしてるみたいだな。
痛いって。
殴ることないじゃん。
でも、ちょっとそんな感じしない?
(以下、めちゃくちゃ甘く)
俺はこのままお前を攫って、俺だけのものにしたい。
本気でそう思ってるから。
だから、今夜はいっぱい楽しもう。