【インターホンの音】
【ドアを開ける】
いらっしゃい。
あがって。
【ドアを閉める】
久しぶりだね。
2週間ぶりくらいだっけ?
お互い仕事が忙しくなって、うまく時間合わせられなくて…。
元気してた?
前よりちょっと痩せた感じする。
忙しいからってご飯抜いたりしてない?
君、元々細いんだから、これ以上細くなったら倒れちゃうから気を付けてね。
俺?
俺は元気だったよ。
寝る暇もないくらい忙しかったけどね。
それも昨日ようやく終わって。
やっとゆっくり休める時間がとれたよ。
お茶淹れるから、適当に座ってて。
確か、君は紅茶好きだったよね。
ハーブティーとかも飲める?
じゃぁ、とっておきのハーブティー淹れるね。
(かしこまった感じで)
お待たせしました。
こちら、カモミールティーでございます。
なんちゃって。
執事っぽかった?
こういうの一度やってみたかったんだ。
少しだけ蜂蜜入れてるからほんのり甘いと思うよ。
熱いから舌、火傷しないようにね。
どう?
おいしい?
よかったぁ…。
カモミールティーにはリラックス効果があるんだって。
あのさ……俺の勘違いだったらごめんね。
なんだか、君が辛い思い抱え込んでるように思えて。
無理して笑ってるように感じてね。
仕事で何かあったんじゃない?
ここには俺と君しかいない。
他に誰もいないから、全部吐き出していいよ?
(数度相槌をうつ)
辛かったね。
いっぱい泣いていいよ。
それだけ辛い思いしたんだもん。
きっと君のことだから『泣いたら負け』とか思ってずっと我慢してきたんでしょ?
そりゃ、ずっと君の隣で君を一番近くから見てきたんだもん。
それくらい分かるよ。
俺は知ってるよ。
ずっと君ががんばってたのを知ってる。
他の誰よりもがんばってたのを知ってる。
仕事が終わって休んだにもかかわらず、目の下にメイクでも隠しきれてないクマが残ってる。
顔が、表情が、仕草が、君を構成してる全てがいつもの君じゃない。
『まだ君は疲れてるよ』って、『もう少し休ませてあげて』って、君の体が俺に教えてくれてる。
君は俺に心配させないように隠してたのかもしれない。
けどね、隠されるのは悲しいんだよ?
俺のこと信じてくれてないのかなって。
会えないことよりも、君の体調が悪くなる方が俺は辛い。
彼女の体調を心配して、お世話できるのは彼氏の特権じゃない?
特権を俺から奪わないで?
俺の前では強がらないで。
俺の前では弱い君を見せてよ。
ありのままの君を全部俺は受け止めるから。
どんな君も俺は大好きだよ。
今はいっぱい泣いていいよ。
君が泣けるのは俺の前だけなんだから。
辛い思いを涙にしていっぱい流してしまおうね。
(間を開ける)
いっぱい泣いたね。
せっかくかわいくメイクして来てくれたのに、泣かせちゃってごめんね。
全部涙で流れちゃったね。
少しはスッキリした?
それなら、よかった。
久々に君の心からの笑顔見れた気がする。
やっぱり君にはその笑顔が一番だね。
俺、君のその笑顔が一番好き。
ねぇ。
今日の残りの時間は家でまったり二人きりで過ごそうよ。
明日も休みだよね?
それなら、今夜は泊って?
ずっと会えなかったから、一分でも一秒でも長く君と一緒にいたい。
さっきはあんなかっこいいこと言ったけど、君とずっと会えなくて、さすがに俺も今回は辛かったんだから。
ここ数日は毎日君を夢に見たくらい、君がほしくてたまらないんだ。
だから、もうしばらくは君を俺の腕の中に閉じ込めさせて。